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大田区工業ガイド

大田区工業ガイド発行にあたって

大田区は高度な加工技術を有する中小企業が集積する日本有数の「ものづくりのまち」です。多種多様な加工技術の集積の強みを活かし、戦後の高度経済成長期から日本の産業全体の屋台骨となり、先端的な技術開発を支えてきました。

平成3年から平成5年にかけてのバブル経済崩壊、平成20年のリーマンショック、平成23年の東日本大震災、令和2年の新型コロナウイルス感染症拡大など、区内企業は幾多の危機を乗り越え、保有する高度な技術力で勝ち残ってきました。工場数の減少を食い止め、未来の大田区ものづくりの姿を確立するため、大田区と大田区産業振興協会は、工業集積の維持・発展に向けた支援、技術革新・経営革新の支援、ものづくり人材の確保・育成支援等、具体的な打開策となる様々な事業を展開しています。また、企業自ら高度な加工技術や開発力を活かすことで、独自の製品開発への取り組みや、若手人材への円滑な技術継承を実践しています。近年では、成長産業である医療・介護、航空宇宙、ロボット等の「次世代産業」への参入にチャレンジする企業もみられ、大田区工業はいま、新たな転換期を迎えようとしています。

このガイドを通して、大田区在住・在勤の方はもとより、国内外の多くの方が大田区工業について一層のご理解、ご関心を持っていただけることを願っています。

公益財団法人大田区産業振興協会
2021年3月

1.大田区の立地と特徴

大田区は東京23区の最南端に位置しており、面積は23区中第1位です。

人口は世田谷区、練馬区に次いで第3位で、昼・夜間人口がほぼ同じなのが大きな特徴です。区内は工業地域、商業地域、住宅地域などエリアごとに特徴があり、区全体で企業活動と生活空間が共存しています。

加えて、東西南北に走る国道、環状線などの幹線道路やJR、京浜急行、東京急行などの鉄道網が充実しています。さらに、日本を代表する羽田空港では、国際化により便数・利用者数は大きく増加しており、これまで以上に世界を結ぶ玄関口としての役割が大きくなっています。

●面積:61.86km2
(2021年1月現在、令和島を含む)

●人口:734,493人
(2021年1月現在、外国人住民を含む)

東京23区のマップ
大田区エリアマップ

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2.大田区内の工場数の推移

大田区内に立地する製造業の事業所数(工場数)の推移

グラフ:大田区内に立地する製造業の事業所数(工場数)の推移

東京23区に立地する製造業の事業所数(平成28年)

グラフ:大田区内に立地する製造業の事業所数(工場数)の推移

大田区の製造業の事業所数は約4,000社と全国でも有数の町工場の集積地です。しかし、昭和58年の9,177をピークに、一貫して減少傾向にあります。減少の理由として、主にバブル経済の崩壊とリーマンショックなどの不況や企業の海外移転による需要の落ち込み、後継者不足による転廃業などが挙げられます。しかし、このような厳しい時代の中で、自社製品の開発や自社技術を磨き上げ、乗り越えてきた町工場が区内に多く集積しています。

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3.大田区内の工場の概要

会社全体の従業者規模

円グラフ:大田区内の工場の従業員規模

大田区内の工場の従業員規模は、「3名以下」が約半数を占め、「4~9名」を加えると「9名以下」で8割弱となります。区内には規模の小さな工場が集積しているのが大きな特徴と言えます。

区内主要業種

円グラフ:大田区内の工場の主要業種

大田内の工場の業種分類では、「金属製品」と「一般機械」で過半数を超え、電子機械や輸送用機械を加えた「機械・金属加工系」の業種は8割を超えます。切削・研磨等の加工技術を得意として、付加価値が高い試作品や治具等の「多品種・少ロット生産」に特化した工場が多いのも大田区内の工場の特徴です。

事業後継者の有無

円グラフ:事業後継者の有無

後継者不足が懸念されておりますが、大田区の事業後継者の有無では、5割以上の企業が後継者は「決まっている」と回答。また、「決まっていないが、候補者はいる」を加えると8割以上の企業が、後継者問題に対し解決する目処を立てていると回答しています。

区内事業所が手がける機能・業務、及び手がける領域

グラフ:大田区内の事業所が手がける領域

区内事業所が手がける機能・業務、及び手がける領域では、「試作・少量生産」及び「量産」が突出しております。内製と外製の状況を確認すると、外注(「一部外注」と「すべて外注」)の割合も大きく、区内企業にとって、企業間との外注ネットワークも重要なことがわかります。

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4.大田区の工場の強み

顧客に対する強み

円グラフ:顧客に対する強み

顧客に対する強みとして、事業所から一番多く回答が挙がったのが「顧客との信頼関係(40.4%)」です。次いで、「顧客ニーズへの対応力(39.0%)」、「短納期生産(33.2%)」、「試作・小ロット生産(32.7%)」、「熟練技能者の技能(31.4%)」の順となっています。

「熟練技能者の技能」により、細かな仕様の対応や、微細な加工調整など、顧客の要望に応えることで、顧客との信頼を獲得していることが、大田区の町工場の強みであるといえます。

区内で操業する利点

グラフ:区内で操業する利点

区内で操業する利点として、「道路交通の利便性が高い」ことや「従業員の通勤の便が良い」ことなど、区内の交通網が充実していることから挙げられる回答が高い割合を占めています。また、「材料・工具などが入手しやすい」や「多様な外注先が多く立地」、「相談できる仲間企業が多い」など、工場の集積や同業種で盛んなネットワークが形成されていることからくる回答を挙げる事業所が多いことがわかります。

区内に立地する製造業の事業所の集積(平成28年の町丁目単位の立地事業所数)

グラフ:H28経済センサス事業所数

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5.大田区の工場の強みと「仲間まわし」のネットワーク

「仲間まわし」連携体制の図
出典:大田区ホームページ「輝け!大田のまち工場」より

大田区内の工場がそれぞれに専門分野を持ち、その分野に特化して、高度な加工技術を体得してきました。その結果、様々な加工技術を有する工場が集積し、「仲間まわし」と呼ばれる連携体制が構築されました。また、コンパクトな経営規模の工場が高度な加工技術を有することで、「多品種」「小ロット生産」「短納期対応」を可能としている点が大きな特長と言えます。以下は加工技術の一例です。

1.切削

切削

金属やプラスチックを削る工程です。 タングステン等の特殊な金属素材の高精度加工に特化した工場もあります。

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2.穴あけ

穴あけ

ミクロン単位(1,000分の1ミリ)の超微細な穴あけ加工の一例です。0.5㎜シャープペン芯にも穴あけ可能です。

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3.研磨

研磨

金属やガラス等の表面を磨いて滑らかにする工程です。機械だけではなく、職人による手作業でも行われます。

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4.めっき

めっき

金属等の表面に被膜を覆う工程です。母体の腐食を防ぎ、表面の質感を向上させる目的で行われます。

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6.経済状況から見る大田区工業の歴史

オイルショック~バブル経済
(1973年頃~1990年頃)
  • 高度成長期の一社依存型から複数受注型へシフト
  • 専門分野の加工技術に特化
  • 「仲間まわし」ネットワークの形成

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バブル崩壊~失われた20年
(1991年頃~2011年頃)
  • デジタル化・IT化による数値制御工作機械の普及
  • 日本経済の停滞に伴い工場数の減少
  • 経営者・技術者の高齢化、後継者不足問題が顕在化

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アベノミクス経済
(2012年頃~2020年頃)
  • 受託加工型から研究開発型へステップアップ
  • 航空・宇宙、医療・介護等の新たな産業への参入
  • 新たなネットワークの形成

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コロナウイルス危機
(2020年頃~)
  • 自社企画による新製品の開発
  • 新たな産業分野への参入
  • 新たな時代に即した経営の変化

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、事業環境の先行きの不透明感が強まる中、区内企業では、自社で企画・開発を進める企業や、異業種同士が連携し、新しい産業分野で新事業及び新製品の開発を行うケースが見受けられるようになりました。 大田区産業振興協会では、区内企業の仲間回しによるネットワークや高度な加工技術・短期対応といった、 本来の強みに加えて、企画力・開発力をアピールし、大田区のものづくり産業を発信していきます。 また、新たな時代に即した経営の変化を目指し、区内外企業との連携や新分野に挑戦する企業を支援し、国内外からの受注獲得と、イノベーションの創出を図ります。

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7.コロナ禍における状況

新型コロナウイルスの感染拡大について

2019年12月に中国湖北省武漢において最初に発生した新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に世界中に広がりました。多くの国で感染の予防策として、2020年を通じ渡航制限や外出制限が実施されましたが、冬の到来により感染拡大が再び加速、2021年に入って海外では、ロックダウンや店舗の営業規制、住民の外出制限などが実施されました。

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、人の移動や交流、店舗の営業が制限されることにより、通常の経済活動は著しく制限され、人々の消費活動や生産活動に大きな影響を与えました。特に、飲食や観光、航空などは前例のない規模で需要が急減しました。こうした需要側の低迷と営業の自粛による供給側の両側面から、経済的な影響が拡大する新しい種類の経済危機となっています。各国、大規模な経済支援を実施しています。

世界中で感染症が拡大する中、日本企業は海外とのサプライチェーンの寸断や需要の急減、感染症対策から、国内外の工場で一時的な操業の停止や、生産調整を行うなどの対応に迫られました。大田区の工業を担う中小企業の大多数は、大手企業からの直接、又は間接の受注により仕事を行っており、大手の状況次第で、経営状況は一変します。そうした中、コロナ禍を乗り越えるために、区内企業は新たな取り組みを始めました。

コロナ禍に置ける各企業の取り組み

区内企業が取り組んだ内容として、まずはコロナ対策の自社製品開発が挙げられます。

4月初旬に、大田区役所庁舎の感染防止対策を検討する中で、当協会では受発注相談サービスを活用し、複数社の企業に協力を依頼し、飛沫防止のアクリルパネル開発に取り組みました。このアクリルパネルは、納品されるまで一週間という短納期を実現し、各庁舎に配備されました。この取り組みはメディアで大きく報じられ、他の区内企業からも自社で対策グッズを開発したとアプローチがありました。

区内企業には自社製品を持っているところは少なく、電子機器や自動車に使用される部品等の加工が圧倒的に多いです。今回のコロナウイルスの感染拡大を受け、各企業が飛沫防止用アクリルパネルの他、医療従事者用のフェイスガード、消毒スプレーのボトル、非接触タッチレスツールなど、創意工夫を凝らしたコロナ対策製品を開発しました。また、区内企業が連携し、製造した製品もあります。この取り組みによって、売上げの増加だけでなく、無償で寄付したことにより、連日お礼の電話やメールが届いたことで、社員のモチベーションアップにつながりました。

次の取り組みとして、社内の感染予防対策があります。

各企業ではマスク着用や、手洗い・消毒はもちろん、時差出勤や時短勤務、通勤時の自家用車・バイク・自転車利用の推奨などが行われました。また、会議の制限、食堂レイアウトの見直しなど、人との接触機会を減らし感染リスクを減らす取り組みが行われています。

さらに、リモートワークを導入する区内企業が増えてきました。ソフト面・ハード面で自宅で仕事ができる設備・環境を整えたり、現場での打合せ・商談をZoomなどのテレビ会議やメールで済むようにしたり、効率があがったという企業もあります。リモートワークの導入に結びつかない職種や企業もありますが、コロナウイルスによって、働き方改革が急速なスピードで進展しています。

そして、営業活動においてもネットの活用が進みました。自社サイトだけでなく、大手ECサイト内で自店舗を開設し、BtoC向けの製品売上を増やした企業や、BtoB向けの技術データベースサイトに自社技術・製品を登録するなど、WEBサイトでの営業を強化しています。また、オンライン商談会やリアル展示会にビデオ会議システムを使ってリモート出展をするなど、新しい展示会出展の取り組みを目にするようになりました。

令和2年度に当協会事業の新製品・新技術コンクールに応募した企業は前年度比2倍の43件となりました。コロナ禍で新製品の開発に取り組む企業が増えています。他社と連携し、新製品の開発に取り組む企業や、クラウドファンディングを通じ資金調達を行う企業、SNSをマーケティングツールとして活用する企業など、新製品開発のため様々な取り組みが見られます。コロナの中、自分たちのできることから始め、新しい環境に柔軟に対応していくことが一層求められています。

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8.展示商談会でビジネスチャンス拡大

高度な加工技術を発信し、新たなビジネスチャンスを創出するために、大田区産業振興協会では目的別に様々な自主企画展示会や商談会を開催しています。その一例をご紹介します。

おおた工業フェア

おおた工業フェア

毎年2月に3日間に渡って開催されるおおた工業フェアは、大田区ものづくり企業が集まる最大のイベントです。

加工技術展示商談会

加工技術展示商談会

加工技術にテーマを絞り、従業員10名以下の工場でも出展しやすい1日限定の展示会です。

おおた研究・開発フェア

おおた研究・開発フェア

おおた研究・開発フェアは「産学連携」にテーマを絞った展示会です。全国の大学や高専、研究機関等が最先端の技術や製品を出展しています。

モノづくり受発注商談会in大田

モノづくり受発注商談会in大田

ものづくり企業の新規取引先開拓や情報収集のため、大田区を中心に全国の企業が一堂に会する商談会です。

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9.新たな産業への参入

国内需要の減少や競争の激化など、厳しい経営環境に置かれる中、新たなビジネスチャンスを獲得するため、長年培った高度な技術を活かし、新たな産業へと参入する企業が見られるようになりました。下記グラフでは「製造装置・生産用機械」「電気・電子・情報通信機械」といった多くの事業所が主力事業としている分野から、今後の成長が見込まれる「医療・介護」「環境・エネルギー」「航空宇宙」といった「次世代産業」の新規開拓意向が伺えます。

グラフ:新規顧客・新規事業に関心のある開拓分野

区内の中小企業群と車いすメーカーが共同で開発した、バスケットボール用車いす「B-MAX made in Ota Tokyo Model」

展示会やHICityにおいて製品サンプルを展示して、メーカーの関係者に区内企業の新製品や加工技術力をアピールしています。

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10.大田区産業振興協会の施策と展望

昨年から世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっており、区内産業界はこれまでに経験のしたことのない対応に迫られています。対面式のサービスが減り、非接触型のサービスが増加するなど、需要・サービスが大きく変化しました。また、ITやデジタル化の導入が急速に進み、従来の経営の在り方や働き方の変革が求められています。

こうした中、大田区産業振興協会では、職場の分散化や交代勤務などの感染予防に努め、区内企業の支援に取り組みました。特に、コロナウイルス対策製品においては、当協会の「受発注相談窓口」を通じ、開発された飛沫防止パネルが、本庁舎や金融機関に設置されるなど、大きな話題となりました。また、イベントの中止が相次ぐ中、オンライン展示会の開催や、感染予防を徹底した商談会を開催しました。コロナ禍で、リアルとオンラインを使い分け、企業同士の関係の構築や新規顧客の開拓に取り組みました。今後も、さまざまな経営環境の変化を踏まえながら、区内企業が変化に適応できるよう支援を行っていくとともに、中・長期的な視点を持ちながら、区内産業の発展に向け、次の事業を展開していきます。

まず、羽田空港跡地に誕生した羽田イノベーションシティに、羽田拠点室を開設しました。今後は、羽田の誘客ポテンシャルを生かし、国内外企業や研究機関と区内企業の連携を支援し、国際競争力の強化と新たな付加価値の創出へとつなげます。また、海外展開のサポートとして、海外展示会の出展や翻訳、海外企業信用調査サービスを展開しています。

次に、区内では幅広い製品分野で、部品などの高度な加工技術を持つ工場が集積しています。今後も活力あふれる地域経済を構築するため、蒲田・羽田拠点と連携し、産学連携やオープンイノベーションの活動を幅広く行い、8つの分野(①ライフサイエンス②ロボティクス③次世代モビリティ④レアアース泥⑤環境・海洋プラスチックごみ⑥農工連携⑦新エネルギー⑧テロ対策・防衛)で産業クラスターの形成に向け事業を展開します。

さらに、区内企業の皆様が安心してモノづくりに取り組める事業環境を提供するため、創業者支援・事業承継・経営相談などの支援メニューを用意しています。そして企業経営の基盤を強化すべく、展示会や商談会の他、受発注斡旋を展開します。

新型コロナウイルスの感染症拡大により、社会や経済は大きく転換しました。経営環境が刻一刻と変化していくなか、コロナ禍後の新常態を見据え、動いていかなければなりません。企業成長の歩みを止めないよう、現場感覚を第一に、大田区産業振興協会では今後も区内企業の成長と発展を支え、区内産業の活性化に取り組みます。

HANEDAxPiO 交流区間では様々な展示会を開催しています。

※注釈:統計数データは「令和元年度大田区ものづくり産業等実態調査報告書」(令和2年5月発行)

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