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少子高齢化・生産年齢人口の減少により、企業の人材採用が困難な状況となっていますが、入社後に企業を支え社会に貢献する人材を育てていくことも重要な経営課題の一つとなっています。今回は人材育成をテーマに、大田区優工場 総合部門賞や東京都中小企業技能人材育成大賞知事賞 奨励賞などを受賞している西尾硝子鏡工業所様にお話しを伺いました。
主な事業は大田区とその周辺地域の同業者向けに加工した硝子を卸しています。その他にも当社が得意とするフレームレスで硝子を接着する技術を用いたガラスショーケースをはじめ、特殊なサイズや形状のオーダーメイド品もユーザーと直接取引しています。
また、月に約3tが産業廃棄物として処分されてきた鏡のリサイクルに挑戦しており、新たなビジネスモデルとして業界内でも注目されています。
以前、あるベテラン社員が入院のため長期休暇を余儀なくされた時、担当の業務を外注しました。ところが、お客様から当社が実際に手掛けた仕事ではないと指摘されてしまいました。この時、属人的な業務遂行に問題があると気付きました。
人材育成は、そもそも企業が何のために行うのか、はっきりさせることが必要です。自ら培った技術や作業方法を他の社員に伝授することは、自分の仕事が奪われてしまうと懐疑的になる人も中にはいると思います。それを解消するためには、教える側の人の業務負担が少なくなり、企業としても効率化が進むという「メリット」を認識し、納得してもらうことが重要です。ここが最初の登竜門です。
その次は、いかに継続していくかです。弊社では人材育成課程の記録を必ず残しています。また成果については社員全員に公表をしています。教えた側も教えを受けた側も、好事例として公表されるため大変励みになります。そのうち社員が理解を示すようになります。ここに至るまでが大変でした。
企業にとって技術や製品はもちろん大切ですが、最終的には「人」が一番大事だと考えています。人材育成は義務で行うものではありません。社長一人で考え、取り組もうとしても簡単にはいきません。社員全員がお互いに補完しあいながら、人材育成に関わっていくことが大変重要です。社風・企業文化として築いていくことが何より大事です。
-3つの具体策についてお話しを伺いました弊社にはベテラン社員が3名おり、皆、卓越した技能を有しています。ガラス加工や製品を作るには、その技能水準の高さを維持し、承継することが重要であると考えています。「1技術3人体制」という独自の多能工制度により、ベテランと中堅と若手でチームを組み、技能の伝授を行う「技能の伝承プロジェクト」を実施しています。
最初の頃は効果的な技能承継の方法も分からず、試行錯誤を繰り返していましたが、現在は体系的に取り組めるようになりました。まずは、伝授すべき項目を決め、次に誰が誰に何を教えるのかを明確にします。月次、年次ベースでの指導計画を作成し、2ヵ月に一度、進捗状況を振り返り、評価を行います。スケジュール及び指導計画の作成は全員で行っています。1年後の自らの到達点の目標を立てていくと、習得は確実に速いです。
以前社員から「この技術を身につけるのにどのくらいかかるか」と聞かれると、私は肌感覚として「10年ぐらいかかる」と答えていましたが、この方法で行うと約2年半で、ベテラン社員の持つスキルの約6割の技能を習得できることが分かりました。数値で把握すると、社員も頑張って続けていけます。
マンツーマン指導の他に、20代の若手中心で技能伝承動画作成プロジェクトも実施しています。ベテラン社員に「どうしてその手の持ち方なのか?」「どういう角度なのか?」など質問していき、技術やコツを分かり易く引き出し、それを全部動画に収めています。若い人たちは結構楽しんで行ってます。これも会社の大きな財産です。
他に技術140項目と社員全員のスキルレベルを掛け合わせたスキルマップも作成しています。何を優先するのか分かり、伝えやすくなります。昇給・賞与等の評価にも連動させてますので、社員のやる気にもつながります。
技能の伝承プロジェクトの他に「持続可能プロジェクト」も同時に実施しています。
会社として経費をかけ、様々な外部研修等を社員に受けさせていましたが、習得したことが継続しない。以前は何度もこの繰り返しでした。学んだことのアウトプットの場がないことが一番の原因だと考えます。何ごとにも継続して取り組めるような社内環境を作らなければならないと思いました。
まずは取り組みやすさや継続性も考え、「環境整備プロジェクト」として5Sのための「毎朝10分間掃除をする」ことを始めました。当初は、これをやって何の意味があるのかと懐疑的である社員も少なからずいました。「とにかく決めたことは続けましょう」ということでやれる人だけでもよいという思いで、実施していきました。
3か月後、ガラスの傷や欠損が減り、クレームも減りました。4か月後にはクレームはゼロになりました。このプロジェクトに乗り気でなかった社員も、効果を目の当たりにし、次第に参加するようになりました。決めたことはやる、小さな約束を守る、社内の約束を守るということは、お客様との約束を守るということにつながります。この取り組みは、そういう社風を創っていきました。
その後、BCPやSDGsなど5つのプロジェクトが立ち上がり、今でも実行しています。1プロジェクト、3、4人程度のメンバーで行っています。3、4人であると全員が発言する機会が生まれ、リーダーシップの醸成、ファシリティ能力、プレゼン能力が身につきます。 この持続可能プロジェクトに憧れて入社する人もいます。
③ 早朝読書会「1日1話 365人の仕事の教科書」という本を読み、感想を共有し社員間で雑談する活動です。6、7人程度のグループを3グループ作り、就業時間内の朝30分間行います。
時代は変わり、社長のみがアイディアを考え、社員がついていくという時代は終わったと思います。一人ひとりが考える必要があります。考える力が無いと、言われたことのみしか行いません。本を読むことにより、考える力を養い、経営的な視点を持つことを目指しています。
また雑談はリラックスしながら仕事やそれ以外のことも語ることができる良い機会であると感じています。社員の様々な考え方が分かり、共有できます。
前編は、人材育成に力を入れようと思ったきっかけから具体的な取り組みについて、お話していただきました。後編は、この人材育成の取り組みの成果と今後の展望、若手社員のインタビューについて掲載します。
株式会社西尾硝子鏡工業所
設立:1932年7月
住所:東京都大田区大森北5-9-12
ウェブサイト:https://www.nishio-m.co.jp
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