現場の課題から生まれた「チーム大田」で開発したオンリーワンの車いす【前編】

介護現場の課題を解決したいという熱い思いから、異なる業種の様々な大田区企業によって生まれた車いす。今回は開発を依頼した株式会社カラーズ 福祉用具事業部 管理責任者 兼 本部統括部長の鈴木様と、開発を担当した有限会社関鉄工所 代表取締役社長の関様に、異業種の彼らだからこそ生まれたアイデアや、開発に至るまでの秘話を伺いました。

株式会社カラーズ 本部統括部長 鈴木氏
有限会社関鉄工所 代表取締役社長 関氏

―お二人の会社の事業を教えてください。

㈱カラーズ 鈴木
弊社は高齢者介護サービス、子育て支援サービス、障害福祉サービス、研修サービスの大きく4つの軸で事業を行っています。今回の車いす開発に関わる高齢者介護サービスでは、訪問介護、訪問看護、ケアマネジャーによるケアプラン作成、福祉用具貸与を主に行っています。

㈲関鉄工所 関
弊社は70年以上続く町工場で、生産ラインにおさめる機械装置や大型部品をつくっています。

―全く異なる業種の2社が車いすを開発することになったキッカケを教えてください。

㈱カラーズ 鈴木
介護現場で働く弊社のスタッフと自社のサービスを利用する利用者様の声を集め、福祉用具を使って利用者様の生活の困りごとを何か1つでも解決できないか模索していました。
そんなとき、東京商工会議所の若手経営者の会合で、弊社の代表が関さんとお会いしました。「なんでもつくれますので、お気軽にご相談ください」と関さんが言ってくださったので、代表が課題をまとめた課題帳を持って㈲関鉄工所さんへうかがいました。

㈲関鉄工所 関
実は「なんでもつくれる」とは言ってないんですよ。
東京商工会議所の会合でカラーズさんとお話したとき、介護用品を扱っていると聞いたので「弊社なら、ボルトが足りないなどちょっとした部品であれば、すぐつくれますよ」という意味合いで話したつもりでした。

―認識の違いから、この開発がスタートしたのですね。

㈲関鉄工所 関
一番印象的だったのが、カラーズさんの思いの熱さです。現場で働く方だから分かる利用者の苦悩、それを少しでも改善してあげたいという思いが、カラーズさんの言葉からヒシヒシと伝わってきました。少しでもカラーズさんのお手伝いができるのであればと思い、開発を引き受けました。

課題帳には様々なアイデアがあり、比較的簡単に解決できそうなものが車いすの改良についてでした。近年、老老介護が社会問題化していますが、おばあちゃんが車いすを大変そうに押す姿を見て、この負担をどうにかしたいというものでした。当初は、車いすをゼロからつくることを想定しておらず、販売されている車いすの前輪を固定するなど少し改良を加えるくらいのイメージでした。打合せを重ね、「勾配がある道でもまっすぐに進むことができる車いす」を開発することになりました。

車いす製作には㈱カラーズ・㈲関鉄工所以外にも複数の大田区企業が参画

―車いす以前に、カラーズさんは福祉用具を開発したことはあったのですか。

㈱カラーズ 鈴木
ありませんでした。この車いすが初めての自社開発製品です。想像していたよりも非常に大変で、完成までに多くの時間を費やしました。初めて関さんに相談させていただいたのが、平成28年です。

㈲関鉄工所 関
当初は市販品に少し手を加えるくらいのイメージでしたので、そこまで難しいとは思っていませんでした。しかし、開発がスタートすると、想像していなかった多くの問題に直面しました。
まず、世の中には我々の想像以上に多くの車いすが販売されているということです。一度、市販の車いすを揃えようと取り寄せてみたところ10台以上集まりました。全ての車いすの後付けパーツをつくることは現実的ではないので、売れている車いすに焦点を絞って後付パーツを作ることにしました。
しかし今度は、市販の車いすは2,3年に1回、フルモデルチェンジするということがわかりました。フルモデルチェンジをすると全体の寸法が変わるため、それまでつくってきた部品が合わなくなります。毎回仕様に合わせて作り変えていては採算が合いません。こうした経緯から、一から車いすを作ることを決断しました。

写真左:㈲関鉄工所 関氏   写真右:㈱カラーズ 鈴木氏

―車いすの特徴を教えてください。

㈱カラーズ 鈴木
この車いすは、介助者が操作することに主眼をおいて開発しました。
大きく4つの特徴があります。
(1)前輪が固定されているため、勾配の傾斜のある道でも楽にまっすぐ進む
(2)前輪をちょっと浮かせて楽に曲がれる
(3)段差を楽に超えられる
(4)踏切や砂利道でも楽に安全に進める
前述の老老介護の課題から介助者目線に立ち、高齢者や女性でも簡単に操作できることをつきつめた製品です。

㈲関鉄工所 関
以前、展示会に出展したとき、ブースに来た大手の車いすメーカーの方に「なるほど、こんな斬新な発想はなかった」と言われました。同じ展示会で広いブースに数十台もの車いすを展示している大手の車いすメーカーが、我々の小さなブースに展示しているたった1台の車いすにビックリしていたことから介助する人のための車いすは世の中にあまりないということを実感しました。

㈱カラーズ 鈴木
長く業界にいる人にしたら、「車いすは乗る人のためのもの、車いすを押すのが大変なことは仕方がないこと」という固定概念に縛られて、介助する人のための車いすをつくろうという発想にはならなかったと思います。また、車いすの前輪は固定されていないものが一般的ですので、我々の車いすの特徴である「前輪を固定するアイデア」は異業種の関さんだからこそ生まれた発想だと思います。我々、福祉現場の者は車いすの前輪は動くものという固定概念を持っていましたから。

㈲関鉄工所 関
ものづくりの現場では、人よりはるかに大きなもの・重いものを運ぶことがあり、どのように工夫したら簡単に運べるのか経験上分かっています。その経験が車いす製作に活きていますね。

完成した車いす

―まさに異業種で取り組んだからこそ生まれたアイデアですね。他に異業種で取り組んで良かったことはありますか。

㈲関鉄工所 関
開発に伴う役割を分担できたことも良かったです。今回の車いす製作では、大田区産業振興協会の助成金を活用させていただきましたが、我々、ものづくり企業にとって助成金申請などの事務は大きな負担となります。今回、助成金の申請に関わる事務はカラーズさんに担っていただいたので、私は開発に専念することができました。

前編は、異業種の2社がどのようにして出会い開発がスタートしたのか、また異業種で取り組むメリットを話していただきました。 後編は、製品化における苦労したことや製品ができた後どのように販売したのかを伺います。

 

 

企業情報①

株式会社カラーズ
設立:2011年12月
住所:東京都大田区大森西6-2-2STビル1階
ウェブサイト:https://www.colors-g.co.jp/

 

 

企業情報②

有限会社関鉄工所
設立:1956年4月
住所:東京都大田区大森西6-7-11
ウェブサイト:https://sekiiron.com/

 

 

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