現場の課題から生まれた「チーム大田」で開発したオンリーワンの車いす【後編】

介護現場の課題を解決したいという熱い思いから、異なる業種の大田区企業によって生まれた車いす。
前編では、異業種の2社がどのようにして出会い開発がスタートしたのか、また異業種同士で取り組むメリットを話していただきました。 後編では、製品化を進める中で苦労したことやどのように販売したのかを伺いました。

株式会社カラーズ 本部統括部長 鈴木氏
有限会社関鉄工所 代表取締役社長 関氏

―車いす開発において、苦労されたことはなんですか。

㈲関鉄工所 関
試作品をつくるまでは楽しく取り組むことができましたが、一般消費者向け(B to C)に製品化することがとても苦労しました。
B to B の製品をつくることとB to Cの製品をつくることは大きく異なります。
弊社は生産ラインにおさめる製品をつくることを本業にしています。B to Bの製品はユーザーが操作方法や注意事項を理解したうえで使用されることがほとんどですが、B to Cの世界ではあらゆるケースを想定し、誰でも安全に使用できるような製品づくりを心掛けなければなりません。

㈱カラーズ 鈴木
福祉用具の場合はそのあたりが非常に大切です。福祉用具は高齢者が使う機会が多いので、より安全なものを提供する責任があります。

㈲関鉄工所 関
また、試作品とは違い、製品として量産することを見越して設計する必要があるため、微妙な寸法変更でも図面に履歴を残すようにしました。市場導入段階に入ると完全に未知の領域でしたが、市場を調査して販売予測や価格設定なども話し合いました。

―B to Cの製品が売れるためにはデザイン性も大切かと思いますが、どのような点に尽力されたのですか。

㈱カラーズ 鈴木
試作の段階では性能のことしか考えていなかったためデザイン性に乏しいものでした。しかし製品化が具体的になるにつれ、利用者の方が使いたくなるデザインにしなければならないと思い、デザイナーの方に参画いただくことにしました。
今回依頼したデザイナーの宮田さん(風と地と木 合同会社代表・ソーシャルデザイナー)は、元々、デザイン性に優れたロフストランドクラッチやT字杖を製作されていました。2022年にグッドデザイン金賞を受賞されているくらい有名な方で、福祉の観点からみたデザインを得意とされています。

㈲関鉄工所 関
デザイナーという職業は自分の中にあるイメージを形にするというものづくりの進め方であるため、宮田さんからの指示は感覚的なものが多く意思疎通が難しいことがありました。我々、町工場は数字を打ち込みプログラミングで工作機械を動かすため、数字の世界で生きています。また、その数字もかなり小さい数字の中で生きています。加工によっては、1000分台の精度を要求されます。そんな世界で生きているので、デザイナーの視点で「あと少し下げてください」と言われても、町工場の我々としたら「具体的にあと何mm下げますか」となります。工作機械のプログラミングに「もう少し」という言葉はありません。「また一人、言語が違う人が加わった」みたいな感じで話が嚙み合わないことも多く、その感覚を合わせるのが非常に大変でした。

㈱カラーズ 鈴木
異なる業種の方々・異なる言語の方々と製品化することの大変さを目の当たりにしましたね。お互い譲れないことも多く妥協点を見つけることが大変でした。 しかし、その甲斐もあって完成した製品のデザインはとても良いものになりました。
こうして誕生したのが「介助型車いすCOLORS®(以下 COLORS)」です。

試作段階の車いす

完成した車いす

―完成した製品をどのように販売したのですか。

㈱カラーズ 鈴木
自社製品の販売を開始することは誰も経験したことがなく全てが手探りでした。取扱説明書をつくる、営業に行く、展示会に出る、様々なコンクールに応募するなど何でもやりました。製品ができたら終わりではなく、ようやくここからがスタートという感じでした。

―大田区中小企業新製品・新技術コンクールも受賞されましたが、影響はありましたか。

㈱カラーズ 鈴木
令和2年度の最優秀賞を受賞したことで、様々なメディアに取り上げていただきました。
その影響もあってか、鹿児島県にある「名勝 仙巌園」から、ホームページにお問合せがあり、現在貸出用の車いすとして5台導入いただいています。

㈲関鉄工所 関
仙巌園は文化財である名勝に指定されており、美しい日本庭園から桜島を望む島津家の別邸です。仙巌園は2018年に大河ドラマ「西郷どん」が放送されたこともあり、多くの方が来園されています。

㈱カラーズ 鈴木
仙巌園は早くからバリアフリーに取り組まれていたのですが、通路には白く細かい砂利が敷かれ、車いすの車輪が埋まって進むのが困難だったため、以前から、車いすのお客様に「砂利道は何とかならないのですか?」とご意見をいただくことが多かったそうです。文化財に登録されると、自由に工事ができないため、車いすが通りやすいように砂利道を舗装することができません。そのため、仙巌園の担当者は長い間、砂利道でもスムーズに走行できる車いすを探されていたそうです。そんなとき、COLORSの存在を知り、ご連絡をいただきました。

㈲関鉄工所 関
COLORSを導入いただいてからは、園内を快適に走行できるようになりとても感謝されました。

名勝 仙巌園

園内での段差昇降

 

園内の砂利道もスムーズに走行

COLORSで園内を散策

―今後の展開を教えてください。

㈱カラーズ 鈴木
COLORSは現場の声から生まれたものであり、様々な施設・場所でご利用いただくことで利用者を笑顔にできると考えております。

㈲関鉄工所 関
少し違う話ですが、ある日、神奈川県にお住まいの女性の方からお手紙をいただいたことがあります。その手紙の内容は、日々、その女性が旦那様を車いすに乗せて診療所に連れていくが、踏切を渡る際、何度も踏切に車いすの前輪がはまり苦労しているというものでした。すぐに、その女性のご自宅を訪問し、我々の車いすをお貸ししました。その女性からは感謝の言葉をいただきました。

㈱カラーズ 鈴木
砂利道、踏切、勾配がある道、舗装されていない道など様々な環境下でも我々の車いすは有効だと考えています。今後はさらにPRに力を入れたいです。今年度は大田区産業振興協会が2月に主催するイベント「Meet New Solution in OTA 2025」に出展し、多くの方にCOLORSの魅力を伝えていきたいと思っています。

㈲関鉄工所 関
展示会ではぜひ多くの方に操作性を体験していただきたいですね。想像している以上に軽い力で前輪を浮かせることができます。体験された方は皆、非常に驚いた顔をされます。最近では、体験される方のリアクションを見ることが密かな楽しみになっています(笑)。

―ありがとうございました。

出展情報・助成金等について

Meet New Solution in OTA 2025
㈱カラーズさんが出展されるイベント「Meet New Solution in OTA 2025」には、社会的課題を解決するソリューションをもつ全国の企業・スタートアップが出展します。 会場で、ぜひ「介助型車いすCOLORS®」を体験してください。

「Meet New Solution in OTA 2025」ホームページ
 https://ota-tech.biz/2025/

大田区中小企業 新製品・新技術コンクール
㈱カラーズさんが受賞された「大田区中小企業 新製品・新技術コンクール」は、優れた新製品や新技術を開発した大田区中小企業を表彰し、その高度な開発力・技術力を広く内外にアピールすることで大田区産業の振興を図ることを目的に実施しております。

「大田区中小企業 新製品・新技術コンクール」ホームページ
 https://www.pio-ota.jp/concours/

新製品・新技術開発支援事業
 (トライアル助成・開発ステップアップ助成・実用化製品化助成)

㈱カラーズさんが利用された助成金は、大田区中小企業が取組む新製品・新技術の開発について、開発の段階に応じて必要となる経費の一部を助成します。

・トライアル助成
企業の成長につながる新製品・新技術を開発するための市場調査を行うもの
・開発ステップアップ助成
企画・設計から試作開発までの取組みであり、期間内に「試作品の完成」を見込むもの
・実用化製品化助成
試作開発が終了した製品・技術そのものの付加価値を高める開発であり、期間内に「実用化製品化の達成(製品の完成等)」及び助成期間終了後1年以内に市場投入を見込むもの

「新製品・新技術開発支援事業」ホームページ
 https://www.pio-ota.jp/newfield-challenge/new-technology-support.html

 

 

企業情報①

株式会社カラーズ
設立:2011年12月
住所:東京都大田区大森西6-2-2STビル1階
ウェブサイト:https://www.colors-g.co.jp/

 

 

企業情報②

有限会社関鉄工所
設立:1956年4月
住所:東京都大田区大森西6-7-11
ウェブサイト:https://sekiiron.com/

 

 

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