産業機器や家電に欠かせないパッキンがここからメーカーへ
みなさ~ん、こんにちは! いきなり、うちわを振っての登場で、失礼します。『おおたシゴト未来図』学生レポーターのオバラです。実はいま、JR蒲田駅から徒歩10分のところにある「株式会社ダイニチ」にお邪魔しています。手に持っているのは、会社のキャラクター「ダイ作くん」のグッズ。カワイイでしょ!
案内してくれるのは、入社4年目の桃原 令さん。がんばってレポートするぞ~。って気合いを入れたら、桃原さんも一緒にガッツポーズしてくれました。やさしい!
- 桃原 令(とうばる りょう)さん
- 工業高校卒業後、モノづくりの仕事に就こうと平成26年に入社。高校の先輩が働いていたことから、ダイニチを知り、興味を持つ。高校では金属を扱っていたので、ゴムや樹脂は知らない分野だったが、新しい分野を試してみたいと入社。現在は、手加工部門で活躍中。
ダイニチは1971年に創業した会社ということですが、さて、何をしている会社なのでしょうか?
まずは1階の作業場をざっと見渡すと、どこを見ても気になるものが視界に入ってくるんですよね……。壁という壁、棚という棚が、板で埋め尽くされているというか、棚からあふれそうになってるんです。桃原さん、あれは何ですか?
「あれはビク型っていうんです」と桃原さん。ひとつ見本を見せてくれました。
あ、ただの板じゃなかったんですね。どれも、抜き加工に使う“型”なのだそうです。打ち抜く形状に刃がついています。
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この型、いったいどれくらいあるんですか?
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う~ん。数えたことがないなあ。でも、何千点という数がありますよ。
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ひゃー、何千! それでこの型を使って、いったい何を作っているんですか?
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ゴムや樹脂、耐熱材などの素材で、主にパッキンやガスケットと呼ばれるシール材を作っています。シール材というのは、中の気体や液体が漏れたり、外から侵入しないように、つなぎ目や隙間を塞ぐための部品です。
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たとえば、どんなところに使われているんですか?
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身近なところだと、水道管やガス管。先ほどの型は、その水道管のパッキンを作るためのものです。あとは、医療、電気、建築などの産業機器。自動車や家電にも使われています。
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あちこちで使われているものなんですね。
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パイプとパイプのつなぎ目というように、つなぎ目がある限り、絶対に必要な部品なんです。ただ、みんなの目に触れることはあまりないんですけれどね。
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縁の下の力持ちですね!
製品ごとにそれぞれの規格に合わせた型を作るので、これだけたくさんの型があるってことなんだそうです。
でも、驚くのは型の多さだけじゃないことが判明!
型がこれだけあるということは、材料もいろいろ必要になってくるんです。水に適しているもの、油に適しているもの、あるいは低温に耐えられるものなど、パッキンが使われる環境や中を通る流体に合わせて材質を選ばないといけないそうです。そのため、在庫としてスタンバイしている材料が1000種類ほど!
うわあ、パッキンって、実は奥が深いんだあ。
さらに、材料や打ち抜く形の大きさや厚みなどに合わせてプレス機も使い分けるのだそうです。
たくさんの型や多種多様な材料を在庫として用意しておくのは、お客様の急なニーズに素早く応えるためだとか。なるほど、町工場の真価というのは、こういうところにあるのかなと感じました。
手加工体験! 四角いパッキン用のゴムをカッターで切ってみました
さて、次は桃原さんの仕事場だという2階にやってきました。抜型では難しい複雑な形状の加工や小ロットのものを作っているそうです。
ん? 作業場に、まさかの卓球台!? 桃原さん、これは何ですか?
「これは高精度プロッターといって、CADに図面データを入力して、材料を切断する機械。穴を開けたり、切り出したり、いろいろな形状の切断もいっぺんにできる。複雑な形状も得意なんですよ」
なんだかゲーム機を操作してるみたい! このプロッターは、放射状にスリットを入れるという難しい裁断もお手のもの。スリットを入れたところを広げてみると、キレイに切れてます。
現在はCADが導入され機械加工が増えたそうですが、桃原さんが入社した当初は、今より手加工がメインだったと言います。手加工は、基本的にカッター1本で行うもの。カッターを傾ける角度や、材料に合わせた切り方といった技術は、見て覚えるしかない。極めるって感じでカッコイイですよね。
使う道具は先輩と一緒だからこそ、細かな技術の差が出てしまうのだとか。「たとえば、ふたつの切り口をすっと一直線につなげて切るという単純な作業でも、切り口が微妙にズレたり、段差ができたり……」と説明を始めた桃原さん。いきなり、私に「やってみませんか?」って、えっ? そうなる?
ドキドキするけど、おもしろそう。ダクトなどに使われる四角いパッキン用のゴムを渡され、手順を教わります。
ちなみに、手加工の作業はすべて半硬質の塩化ビニールが敷いてある床で行います。そのほうが安定するのだそう。
「まず、四隅に直角たがねで切り込みを入れます。スコヤーというゲージ紙で作られた型のようなものを置き、たがねを当てて、ハンマーで叩く。思い切り叩かなくても大丈夫ですからね」
Let’s try! あれれ、ハンマーを垂直に下ろすのが難しい。見ているのと、やってみるのとでは大違い。
なんとか切り込みが入りました。ほっとしたのもつかのま、「ここからがメインです」と桃原さん。
「さっき切った四隅の切れ目をカッターでつなぎ切ります。力は入れずにカッターの重さだけで切る感じ。力を入れると、ゴムはダメなんです」
ゴムってこんなに切りにくいんですね! なんとか切って桃原さんに見せると、「ここ、段差ができてるでしょ。これをヒゲっていうんです。自分初めてやったとき、まさにこんな感じでした」と、さっそくチェックがはいっちゃいました。
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桃原先生、出来は何点くらいでしょうか?
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う~ん、30点かな。
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え~、厳しい!
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ヒゲが出ないことが条件なので(笑)。ヒゲができるっていうことは、寸法に誤差が出ているということ。合わせるとわかるんですが、ヒゲができた部分、ちょっと小さくなっちゃってるでしょ。
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あ~、ほんとだ。でも、手作業だと誤差はつきものなのでは?
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パッキンなどは気密性が求められるので、誤差を0.3ミリ以内に抑えることをめざしています。たった0.3ミリでも、違和感が出ちゃったりするんです。
「扱う材料がいろいろあるのも、この仕事のおもしろさ」と桃原さんは言います。硬い材料もあれば、すごく柔らかい材料もある。さらには硝子繊維や布が入った材料も。そうしたあらゆる材料に対し、カッターの寝かせ方などを工夫して、きれいに仕上げるのが腕の見せどころ。培ってきた技術が通用したときがうれしいと笑顔で話してくれました。
それは機械で加工するときも同じだとか。材料の厚みによっては、機械にかけたときに、ほんのわずか余計な抵抗がかかる場合も。その抵抗分だけ入力する数値を変えるなど、細かな調整をしながら作業に臨むのだと言います。
豊富な在庫を武器に、断らないスタンスで相互信頼を築く
ダイニチでは月の半分は土曜日も営業。そんなときに「どこも休みで困っている。やってくれないか」と急に仕事が舞い込んできたり、午後3時を過ぎてから「今日中に送って」という注文がはいってきたり。そんなとき、ダイニチでは基本的に断らないそうなんです。
そんな会社のスタンスについて、営業課長の河野貴志さんにお話を聞いてみました。
- 河野 貴志(こうの たかし)さん
- 営業課長。入社9年目。前職は、ジョイントシートやテフロンなどの材料メーカーの代理店に勤務。その材料をダイニチに納入していたのが縁で転職。モノを作る側と売る側という両方の立場を知る強みを、お客様との交渉に活かしているという。
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短納期には絶対の自信があるんです。それは、多種多様な材料を在庫として揃えているというのが大きい。だから「明日出荷してほしい」「今日中にほしい」というニーズにぱっと対応できるんです。
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最初からそういうところをめざしてきたんですか?
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いえ、お客様からお願いされたことに、なんとか対応しようと続けてきた結果です。「助かったよ」ってお客さんが喜んでくれることが、自分たちにも一番の喜び。そういうお客様の声は営業から必ず現場に伝えて共有しています。
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そうやって、「ダイニチさんに頼めばやってくれる」という信頼関係が出来てきたんですね。
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お客様のニーズに寄り添っているうちに、なぜか千葉の工場で縫製の仕事を引き受けることにもなってしまいました(笑)
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えっ、縫製ってまったく畑違いですよね?
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そうなんですよ。でも、「高齢になって廃業する方がいるので、代わりにやってくれませんか?」というお話しをいただいて。それを聞いた社長が「じゃ、やってみよう」と(笑)
会社としての新たなチャレンジが、もともとはお客様のお困りごとに応えようとするところから始まったというのが、ダイニチという会社の姿勢をよく表しているように感じました。
再び桃原さんに、入社してからの4年を振り返ってもらうと、「メンタルが強くなった。たくさん失敗もして、先輩にも怒られたし」と笑って答えてくれました。
心がけてきたのは、「めげない、しょげない、あきらめない」こと。立ち止まらず、とにかく実践することを考えてやってきたのだとか。昔は思いつけなかったことも、失敗を経験した今なら思いつく。そうやって成長してきたと感じているそうです。
そのポジティブな3つの心がけ、私も真似したいな!
ところで桃原さんの今後の目標は?
「去年入ったCADは、プロッター加工と言って、エンドミルという平面を回転する刃物で硬いモノを削り出すことができる。塊から器の形や立体的なものも切り出すこともできて、すごいんです。今はまだ先輩が担当している加工だけど、自分もそれを学びたい」
もっともっと、新しいものづくりや新しい技術に挑戦したい! そんな仕事への情熱が、穏やかな口調からも伝わってきました。
大きな機械も配管も、どこかにつなぎ部分がある限りパッキンの需要は必ずある。河野さんと桃原さんは誇らしげにそう語ってくれました。私が思い浮かぶパッキンと言えば、蛇口のパッキンくらい。正直、それほど大事な部品だという認識がなかったけれど、実はものすごくこだわって作られているものなんですね。
そういえば、会社のキャラクター「ダイ作くん」は、社員全員で絵を描き、その“いいとこどり”で出来上がったそう。アットホームな雰囲気が伝わってくるエピソードです。会社の屋上ではバーベキューを楽しむこともあるとか。社員の結束を大事にした会社なのだろうと感じました。
株式会社ダイニチの
- スムーズな技術の継承が3年後の目標。盗める技術はどんどん盗んで、先輩達の技術を自分のものにしていってほしい。もうひとつは、在庫などのデータベス化を行い、“見える化”を推進していきたい。それによって業務の効率化を図っていきたいと思っています。
- 技術の継承が花開く頃。技術を継いだ人が、さらにまた次の世代に継承できるようにしていきたい。さらに現場も営業も、これまで以上に風通しの良い職場環境をめざし、社員の働きやすい環境づくりに取り組んでいく。営業面からは、顧客の拡大をさらに狙っていきます。