工業機械からオブジェまで。自社製品を開発
どうも!『おおたシゴト未来図』レポーターのヤマウチです。今回僕が訪問したのは、株式会社大橋製作所。東京モノレールの昭和島駅を降りて、徒歩約13分の場所にあります。
社名のプレートが重厚な感じ。それもそのハズ、大橋製作所は1916年に創業した、歴史ある会社なんです。創業から100年以上、人間だったらご長寿さんですよ!
まずは会社のことを、取締役の大橋一道さんにお聞きしました。(2020年1月16日取材。2020年5月23日、代表取締役社長 就任)
老舗とも言える製作所の取締役ということで、どんな人かとドキドキしながら待っていたら、現れたのはロマンスグレーのシブい方。話し方もソフトなので、リラックスしてお話しすることができます。
大橋製作所は、精密機械向け金属部品の板金加工を行っている会社です。板金加工とはその名の通り、金属の板を切断したり曲げたりして、いろいろなカタチに加工すること。
大橋製作所では、精密さを求められる産業設備の部品の他、身近なところではゲームセンターにあるゲーム機の筐体や、バスの運賃箱、宅配ボックスなど、いろいろな製品を製造しています。
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大橋製作所の特長は、やっぱり技術の高さですか?
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そうですね。でも板金加工で部品を作るだけでなく、自社製品の開発・製造・販売も行っています。これは弊社の大きな特長だと思いますね。
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大橋ブランドの製品、ということですよね? どんなものを作っているんですか?
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材料試験機など、製品を作る作業をサポートするための工業機械のほか、数学の関数を立体化した「数楽(すうがく)アート」というオブジェも作っています。
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ええっ?! アートオブジェも作っているんですか?
板金加工の会社だと思っていたけど、どうも普通の会社じゃないみたいです。うーん…、混乱してきたぞ。謎を解くため、まずは自社製品の工業機械のことから聞いてみます。
「自社の『困りごと』を解決したいと思ったことが、自社製品を作るきっかけになりました」と大橋取締役。
創業当時はお客様からの依頼を受け、部品を作っていた大橋製作所ですが、部品を製造していくなかで、より生産性を高めるための機器が必要だという思いから、初の自社製品となる特殊金型を開発したと言います。
「こういうモノがあったらいいな。ないなら自分たちで作っちゃえ」ということですね!
その後は、自社だけでなくお客様の『困りごと』を探り、それを解決するための製品を開発。上の写真にあるオレンジ色の機械も、大橋製作所が開発した溶接の強度を確認する機械なんですって。
そしてコレ、僕が手に持っているのが「数楽アート」というオブジェです。
関数を3次元立体グラフで表すと、美しい曲線を描き出します。それをシルバーメタリックのステンレス板で作ったものが数楽アートなのだとか。不思議でキレイで、ずっと見ていても飽きない魅力があります。
工業機械を作ってきた大橋製作所がオブジェを作ったきっかけは、お客様が何気なく言った一言でした。
ある大学の先生から実験のための装置を作って欲しいとの依頼を受け、研究室を訪問した時のこと。部屋に関数を立体化した紙製のオブジェが飾ってあったと言います。
「これが金属でできていたら、美しいだろうね」という先生の言葉から、紙製のオブジェをステンレスで作るという挑戦が始まりました。
そして何度も試作を重ね、完成した数楽アートは、大橋製作所にとって初のコンシューマー向け製品になったのです。
オブジェまで作っちゃうなんて、大橋製作所のチャレンジ精神、ハンパないです!
不良品を「作らせない」システムを作る
では実際に、現場で働いている人のお話を聞いてみたいと思います。
チャレンジ精神旺盛な大橋製作所で働いているんだから、きっとアグレッシブな人だろうなと思いつつ待っていたら、登場したのはこの方!
日野貴之さんです。アレ、なんかとてもさわやかな方。しかもイケメンじゃないですか!
作業着を着ていても、さりげなくおしゃれな感じがしますねぇ。
- 日野 貴之(ひの たかゆき)さん
- メタル事業部 品質保証グループ所属。2018年入社。高校卒業後、自動車メーカーの工場に5年間勤務。トラックのキャブやボディの板金加工に携わる。しかし、パーツの一部だけを効率優先で加工する仕事に疑問を感じ始める。製品の一部だけではなく、最初から最後まで全部自分の手で作ってみたい、技術を高めたいという思いと、職人への憧れから、株式会社大橋製作所に転職。
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どうして転職先に大橋製作所を選んだんですか?
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板金加工の会社で、自社製品を開発しているところってめずらしいんですよね。工業機械だけでなく数楽アートを作っていることもユニークで、自分の手でモノ作りができそうだと思ったんです。
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日野さんはモノ作りが好きなんですね。
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子どもの頃からモノ作りが好きでした。でも、実際に何かを完成させたことはないんですよね(笑)。
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え〜、結局作ってないんですか!
日野さんの仕事は、出荷前の製品の品質検査。工場で加工された納品前の製品をチェックするのが主な仕事だとか。仕上がった製品をいくつか抜き出し、仕様書通りに加工できているか、部品の取り付け忘れはないか、サイズは合っているかなどを細かく確認していきます。
サイズを図る時に使うのは、「ノギス」という長さを100分の1mm単位まで精密に測定できる精密な測定器。「コ」の字のような部分をスライドさせて製品をはさみ、そのサイズを測定します。
でも、100分の1mmって、人の手で測れるものなのでしょうか?
「いや、大丈夫ですよ(笑)」と、さらりと言う日野さん。精密板金加工って、そこまで精密さが求められるものなんですね。
というわけで、僕も日野さんにノギスの使い方を教えてもらいながら、サイズの測定に挑戦してみました。だけど、まず仕様書の見方がわからない!
それに部品が小さいから手がプルプルふるえて、うまく持てないんです。製品の一辺を測定するだけでも、かなり時間がかかっちゃいました。
品質検査だけでなく、納品した製品に不具合があった時の対応も日野さんの仕事。製品は日野さんがチェックしてから納品するものの、全品検査することは少ないため、例えば100個のうち1個だけ加工に不具合がある、ということもあるのだとか。
そんな時は、次に同じミスが起きないよう、具体的な対策を職人さんたちと一緒に考えていきます。
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でも日野さん、人がやることって、必ずミスが起きるじゃないですか。どうやってミスを防ぐんですか?
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「不良品を作れないシステム」を作るんです。たとえば、ミスが起きないように作業できる道具を作るというのも一つの対策ですね。
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「ミスが起きないようにがんばる」ではダメなんですね。
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お客様からも具体的な対策を求められますし、社内でも不具合が起きたら必ず対策をするという決まりがあるんです。人に頼るのではなく、やり方を変えるが基本です。
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僕が仕事でミスしないようなシステムも日野さんに作って欲しいです。
不具合が起きたら対策をすると一言でいっても、そうカンタンなことではないのだとか。加工の工程は製品の種類によってさまざまで、不具合が起きる原因のなかには、解決策が見つからないケースもあると言います。
「そんな時は現場の声を聞くようにしています」と日野さん。本やインターネットでも調べるけれど、一番答えが落ちているのが現場なのだとか。職人さんの経験や知識を聞くことで、解決策のヒントが見つかることが多いそうです。
ミスをしたら、対策してやり方を変える、が大橋製作所のルール。職人さんってガンコなイメージがあるので、やり方を変えることに抵抗があると思っていたのですが意外や意外、みなさんすごく柔軟に対応してくれるのだとか。「一番ベテランの職人さんが、一番柔軟なんですよ」と日野さん。
その一番ベテランの職人さんは、板金加工職人から60代でCADを学び、設計を手掛けるように。今は板金加工の現場に戻り、若手の指導にあたっていると言います。いや〜スゴい人がいるものです!
品質検査の経験をモノ作りに活かしたい
もともと日野さんはモノ作りがしたかったハズ。今担当している、品質検査の仕事に満足し、やりがいを感じているのでしょうか?
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ぶっちゃけ、今の仕事は楽しいですか?
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楽しいですよ(笑)。モノがどうやって作られているのかを知ることが好きなんですよね。また、対策したことで不具合がなくなったことを実感した時は、やりがいを感じます。
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今は自分でモノを作ったりしないんですか?
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仕事ではないですね。でも、自分の結婚式の動画を作る時、カメラを固定する台を作りたいと思って職人さんに相談したんです。
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で、作ったんですか?
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図面を描いて、作ろうと思ったんですけど、結局必要なくなったので作りませんでした(笑)。
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え〜、結局作ってないんですか!
そんな日野さんも、いつかは現場でモノ作りに携わりたいと思っていると言います。現場に出た時、品質検査の仕事を通して得た知識を活かしたいと密かに思っているのだとか。
「お客様と直接話したり、他の板金加工工場を見た経験を取り入れて、もっといい製品を作れる環境を作っていけるといいなと思っています」
日野さん、やる気マックスじゃないですか! 大橋製作所には新しいことを自由にやらせてくれる風土があるから、意欲も高まってくるというわけですね。
「ないなら作ればいい」というシンプルで自由な発想力とチャレンジ精神で、今までにないものを次々と作り出してきた大橋製作所。それを支え、実現してきたベースには、昔から引き継がれてきた職人の技なのだと感じました。
大橋製作所では、社外とのコラボレーションによる新製品も続々開発中とのこと。大田区の町工場から生まれる「今はないモノ」。今から楽しみです!
株式会社大橋製作所の
- レタスの工場栽培で使われる設備を開発しました。これは、レタスの成長にあわせて、苗を植え替えるという装置。人の手でやっていたものが自動化されるため、大幅に効率がよくなります。工場栽培のニーズは今後も高まると思うので、3年後にはビジネスとして軌道にのせたいと思っています。
- 「求められているのに、ないもの」を作ってきた大橋製作所の伝統を活かし、時代に求められるものを作っていきたいですね。そのためには、技術力を高めることが必要不可欠。20年前から行ってきたスキルプランなどで社員の意識を高めるとともに、技術の継承にも注力したいと思っています。