ミクロン単位のレーザー加工で量産前の試作や開発実験に貢献
こんにちは! 『おおたシゴト未来図』レポーターのコンドーです。
僕が来ているのは、大田区東糀谷にある「OTAテクノCORE」という工場アパートです。4階建ての施設内は33区画に分かれ、大田区のものづくり産業を支える中小企業がここで事業を行っているのだとか。そのうちの一つ、「株式会社リプス・ワークス」という会社を訪ねてやってきました!
その前に、ちょっと見てください、このエントランスのおしゃれ感。僕の想像していた工場アパートとはまるで違います。どこかのタワーマンションに迷い込んだかと思いました。では改めて、いざ、開門!
中の廊下は、ごらんのとおり。やっほー! 軽く50mダッシュできそうですね!!
遊びたくなる気分を抑えて、今回の訪問先「リプス・ワークス」へ向かいます。2階で待っていてくれたのは、入社8年目の三本松 陽一さん。立ち姿がシュッとして、キマってます。
どーも、今日はよろしくお願いしまーす。
- 三本松 陽一(さんぼんまつ よういち)さん
- 受託加工グループ 加工担当。大学でゲームなどのメディア系を学び、卒業後はゲームセンターの店員に。もともとモノを作ったり、機械を操作するのが好き。それを活かしてものづくりの世界をめざす。いろいろなものが小さくなる時代、リプス・ワークスのレーザー微細加工に将来性を感じ、転職。現在はレーザー加工機のオペレーターとして活躍中。
それにしても体育館みたいな広さ! タテヨコ3mはあろうかという機械が並んでいます。リプス・ワークスは2009年創立の若い会社なんですが、いったい何をしている会社なんでしょう?
最先端のレーザー微細加工技術で、精密機器などを加工しています。といっても、特定の製品を作っているわけじゃありません。取引先からの依頼を受け、量産前の試作や開発案件の実験をするのがメインの仕事。ここに並んでいるのは、そのためのレーザー加工機です。
「こういうものに使いたいので、こういう加工できるかな?」みたいな依頼ですか?
そうですね。円筒形やギアの歯など、複雑な形状にレーザー加工してほしいとか。この材料にレーザーを当てたらどうなるかを見たい、といった依頼もあります。
レーザー加工っていうと、どういった分野からのニーズがあるんですか?
自動車、医療機器、電子部品、食品のパッケージなど、幅広い分野の企業が取引先です。さらに、大学や研究所などからも。ものづくりの世界では、どんどん小型化が進んでいるし、より精密になっていますよね。だから、さまざまな最先端分野でレーザー微細加工が必要とされているんです。
レーザー微細加工って、そんなにすごいものなんでしょうか。
微細加工というのは、ミクロン単位の加工。そうです、1ミリメートルの1000分の1。と聞いても、実感なんかわきません。
ここはぜひとも、そのミクロの世界、この目で確かめてみたい!
と、お願いしたところ、レーザー加工で穴を開けたサンプルの板を渡されました。でも、ふつうに見てもまったく何も見えません。ホントに穴なんてあるの?と疑いつつ光に当てると
あっ、あった! たしかに、穴!! ミクロの世界を透かし見しちゃった! なんだか感動~!
で、もう一つはスライドガラスに表面加工したものを、顕微鏡を使って見てみます。
どれどれ……。わあ! 四角い凸凹がきれいに並んでいる!
これは四角ピット加工というもので、彫りの深さはなんと50ミクロン。ガラスやセラミックス、金属、樹脂など素材を問わず加工することができるんだとか。
でもいったい、こんな顕微鏡で見ないとわからないような表面加工、何に使うんだろう?
たとえば、こうした表面加工を施すことで、摩擦抵抗をいい具合にゼロに近づけたりできるらしい。残念ながらその先の、どんな製品に利用されているかは、守秘義務があって教えてもらえませんでした。それだけ最先端の研究や開発に関わっているということなんですね。
1兆分の1秒で、より精密な加工を可能にするピコ秒レーザー加工機
次は、レーザー加工機を使った作業について説明してもらいましょう。三本松さんはレーザーグラスをかけて、機械の前でスタンバイ。それにしてもこの機械、なんだかSF映画に出てきそう。未来っぽさ、ハンパないですね。
ピコ秒レーザー加工機っていうんです。ピコ秒+COOL+レーザーシステムの頭文字をとって、「PiCooLS(ピクルス)」っていう名前がついてます。1号機から5号機まであるんですよ。
ピクルス1号……。ちょっと親しみわきます。でも、そもそもピコ秒ってなんですか?
ピコ秒というのは、1兆分の1秒のこと。超短パルスレーザーと言って、その1兆分の1秒の非常に短い照射時間で加工するんです。
1兆分の1秒だと、何か違うんですか?
通常のレーザーだと周辺部にも熱が伝わってしまうんです。でも、1兆分の1秒で加工できる超短パルスレーザーなら、熱影響が少なくてすむ。だから、これまでは不可能だった材料にも加工できるし、より精密な加工も可能なんです。
マッチ棒の先も、着火させずに加工することができちゃうのだとか。魔法のようなスゴ技です!
機械の中は意外とすっきりしてました。
加工したいものをテーブルに置き、そこに発信器から出るレーザーを鏡で反射させ、正確に光を集合させる。狙う場所は何十ミクロンという、小さな小さな、とっても小さなサイズ。最終的には顕微鏡カメラで観察しながら、数ミクロンずつ微調整して位置決めをしていきます。
さらに材料の特性などを考え、投入するエネルギーやレーザーの打ち方を変えていく。オペレーターの腕の見せどころです。
加工が終わると、顕微鏡で出来上がりをチェックして完了! ではないんです。
結果をレポートにまとめる仕事が残っています。
ときにはどんなに試行錯誤しても、お客様が望む結果が出ないことだってあります。そんな場合は、「こうすれば良い方向に行くのでは」という丁寧な考察をつけることで応えるのだそうです。
お客様への誠意。やっぱり大事なのはそこなんだなあ。
未来の技術の方向が見えてくる。そこがこの仕事のおもしろさ!
最新鋭の機械も、それを使いこなすプロフェッショナルなオペレーターがいればこそ。というわけで、三本松さん自身の仕事のこと、もっと聞いちゃいました。
毎回やる内容が変わるので、8年目になった今でも、毎日が新鮮です。1件の仕事の単位は1日から、長くても数日。その短いスパンの中で、自分なりに行動計画を考えて作業を進めていける楽しさもありますね。
加工機の操作は初めてだったわけですよね。どんなふうに仕事を覚えていったのですか?
研修で基本操作を教えてもらい、一通り動かせるようになったら、先輩の元で一緒に仕事をして作業を覚えていきました。そういうOJTが1年~1年半くらい。要領を覚えたところで独り立ちしました。今でも、うまくいかないなというときは、まわりの人に相談しています。
どんなところに仕事のおもしろさを感じていますか?
今の工法では不可能なことを、レーザー微細加工で実現できないだろうか、という相談が来るので、どれも最先端の案件。だから、世の中の技術がどういう方向に進むのかなっていうのを知ることができる。それがこの仕事の魅力ですね。
未来の技術はこう進むっていうのが見えるんですね。やっていて、うれしいのはどんなときですか?
お客様が望んだ結果や、それ以上のものが出せたとき。お客様から「想像以上の品質です」っていう言葉をいただいたときは、うれしかったですね。うまくいかずにがっかりすることもあるけれど、やる以上は、できないなりのデータや結論をちゃんと形にして提示することをめざしています。
お客様からの依頼に応える加工をするには、様々な試行錯誤を繰り返します。それは機械を操作する前から始まっているのだとか。
まずは類似の案件がないかを社内のデータベースから探すところからスタート。類似の案件がなければ、金属や樹脂、ガラスといった材料の分類から当たりを付けていく。そうやって実績やデータと照らし合わせ、「こういうアプローチをすれば、希望する結果に近づけるんじゃないか」と考えながら取り組んでいくそうです。
「私たちの仕事は、単に加工するというだけでなく、そこに付加価値をつける仕事」と三本松さん。だから、世の中がどう動いても左右されにくい。たとえ自動車産業がガソリンから電気に変わっていっても、レーザーの使い途はきっとあるはず。そこがリプス・ワークスの強みなのだと、力を込めて話してくれました。
レーザー微細加工のすごさが伝わってきて、ワクワクする取材でした。
未来のクルマをはじめ、これから世の中に登場してくる様々な製品。その開発秘話に、きっとリプス・ワークスの加工技術が貢献しているのでしょう。表には社名が出ないけれど、日本中の最先端のものづくりを、こういう形で支えている企業があることを初めて知りました。
大田区は大学や公共機関等が多く、羽田空港が近いというアクセスの良さもある。そうした環境もリプス・ワークスの事業を後押ししていると感じました。
株式会社リプス・ワークスの
- 現時点でのリプス・ワークスの加工技術も「たぶん日本一」と誇れるものと考えているが、さらに「ダントツで日本一だ」と言えるような加工技術を追求していく。それが、“お客様の第2工場・第2実験室”という役割を担うリプス・ワークスの一つの使命ではないかと考えています。
- 国内トップクラスの技術レベルで、高い付加価値を提供している自負があるものの、技術の追求だけでは、いずれライバル国に追いつかれてしまう危機感もあります。そこで非熱加工技術での優位性を武器に、リプス・ワークスにしかこの材料の加工はできないという特許を取得していくことも方向性の一つと考えています。