膨大な取り扱い商品群と70年かけて培ったネットワークが武器
みなさん、こんにちは! 『おおたシゴト未来図』レポーターのハセガワです。いま、私がいるのは東京モノレール「流通センター」駅前。初めてこの駅で降りたんですが、緑が多く、歩道は広く、空も広い! 開放的な雰囲気で、通勤の足も自然と軽やかになりそう。
さて今日の訪問先「株式会社東洋電機商会」はここから数分。じゃあ、行ってみましょう!
ちょっと歩くと目の前に現れたのは、「屋上に滑走路があるの?」っていうくらい巨大な物流ビルが2棟。この中には、東洋電機商会をはじめ、様々な企業のオフィスや物流施設が入っています。ロケーションに圧倒され、あやうく迷子になりかけた私を迎えてくれたのは、入社6年目の尾田和正さん。笑顔が素敵ですね。
- 尾田 和正(おだ かずまさ)さん
- 大学卒業後、電気メーカーに約4年勤務。その間、営業、総務、営業企画と幅広く経験し、2012年に東洋電機商会に入社。最初は千葉支店で営業を担当。現在は総務部総務課課長として活躍中。主に人事を担当し、新入社員の教育にも携わっている。創業者の先代社長は祖父にあたる。
ザ・流通拠点というような場所に本社を構える東洋電機商会は、1947年創業の電気機器関係の専門商社。70年の歴史を持つ会社です。
商社の仕事は、仕入れ先メーカーから商品を購入し、必要としている顧客に販売するという、いわば取り引きの仲介役。東洋電機商会が扱っている商品は、工場や発電所、変電所向けの照明機器、電球、ケーブル、電線管、配電盤などの電気設備製品全般です。
実際にどんなものを扱っているんでしょうね。ちょっとだけ見せてもらいました。いろいろあるなあ。どれどれ、これが工業用ブレーカーですか。あ、ずっしり。やっぱり工業用となると見かけ以上に重い。工場で使うので、ホコリが入らない作りになっているんですって。
こちらはちょっと大きなもので、火災発信器収納箱。建物の外に置くスタンド型だとか。こんなふうに、小さなものから大きなものまで多種多様なものを取り扱っています。
じゃあ、どんなところが取引先なのでしょうか?
おっ、なんと、東京電力ホールディングス株式会社(以下、東京電力)をはじめ、電力、建設、製薬、食品など、インフラや私たちの生活を支える大企業の名前がずらり。のべ860社ほどになるそうです。
特に東京電力とは70年来のおつきあい。創業当時、先代社長がリヤカーに商品を積んで売りに行った最初のお客様なのだとか。
考えてみると、照明にしてもケーブルにしても、製造工場などの現場には必要不可欠なもの。なければ、そもそも機械は動きません。そういえば、取り引き先の中には、私が今朝食べてきたパンを作っている会社も! ということは、あのパンが私の口に入るには、東洋電機商会の仕事が欠かせなかったってことかあ。ごちそうさまー。じゃなくて、ありがとうございまーす。
弊社の強みは、工場で使う電気機器、機材のほぼすべての商品を扱っていること。仕入れ先メーカーの数も500社ほど。新しい商品も増えるし、過去に取り扱ったものにもニーズがあります。なので商品の数は、それこそ“ごまん”とあるんです。
つまり、把握しきれないと(笑)。なぜそんなことに?
先代が、「こんなのない?」と聞かれたときに、第一声で断りたくないという考え方だったんですよね。その思いを引き継いでお客様の要望に応えているうちに、いつのまにか膨大な商品群になっちゃったんです。
「ないです」と言わない姿勢はかっこいいです。でも、正直なところ、営業泣かせなのでは?
そうなんですよね(笑)。会社の経営から見ても、たとえば電線だけ、電球だけに特化して商品提案ができれば、その部分のシェアは増えると思うんです。ただ、お客様にとっては……
困った時の東洋電機商会、というキャラができちゃってる(笑)。東洋電機商会に頼めば必要なものが揃うという安心感があるわけですね。
それは中小企業だからできたことだし、70年続いてきた理由にもなっていると思っています。
『困った時の東洋電機商会』という営業スタイルは、70年かけてコツコツと積み上げてきた、仕入れ先との信頼関係やネットワークがあればこそ。その土台作りが大事なのだと尾田さんは力を込めました。
なければ作るの精神で、企業のものづくりをサポートする
商品を仲介して渡すだけではありません。お客様のニーズを聞き、課題を見つけ、業務改善のお手伝いをする。そうやってお客様に寄り添う提案型営業が、東洋電機商会の特徴なのだとか。もうちょっとかみ砕いて説明してもらいましょう。
「こういうものないかな」「最近こういうことで困っていてね」という話を引き出し、既製品で対応できればそれを持っていくし、なければ新たにお客様と一緒に作っていく、そのお手伝いをしているんです。
だから、商社なのに「技術部」があるんですね!
そうなんです。営業が聞いてきたニーズをもとに、すぐCADで図面を描き、設計図を作っちゃう。それができるのが東洋電機商会の強みです。
ないのなら作ってしまおうホトトギス、ですね(笑)
そうやって作られたものの一つが、東京電力の変電所用に作った道路照明用ポール。「作業員の安全のため高所作業が不要なものを」という要望を受けて設計、特許をとり、協力会社で製造してもらったそう。現在、東京電力の変電所に置いてある街路灯の9割は、東洋電機商会の商品だとか。
「変電所の前を通りかかったとき、弊社の商品が置かれ、そこに電気が点いているのをみると、役立っているなあってうれしくなるんです」と笑う尾田さん。うんうん、その誇らしい気持ち、わかります。
東京都内で電気設備資材を扱っている商社は、3250社ほど。その中で商品開発や設計製作にまで手を広げている会社は珍しいと言います。そもそも、作ってもらうメーカーとのつながりがないと、やりたくてもできないですよね。
その点、ここ大田区は町工場が多いという地の利があります。小ロットの受注、細かなオーダーにも対応してもらえるのは町工場だからこそ。「こういうもの作ってくれるところはないかな」と探すときに、区が斡旋してくれるのも助かると尾田さんは教えてくれました。
そんな東洋電機商会+大田区の町工場のペアは、東日本大震災の折にも力を発揮したそうです。ん? 気になる。
実はあのとき「福島第一原子力発電所で使う防水型耐震コードリールがほしい」という要望があったのだとか。でも既製品には、屋外で使え、余震でケーブルが抜けず、浸水場所でも漏電しないという条件を満たすものがなかった。そこで大田区内のメーカーと連携しオリジナルのコードリールを作っちゃたそうです!
そのとき作ったコードリールの一つが社内に保管してあると聞き、見せてもらったのが、これ。
う~ん、これと同じものが、現場で活躍していたのかあ。東洋電機商会、Good Job!
受注から荷渡しまで全部やる。だからお客様との距離が近い
尾田さんに、東洋電機商会の営業の面白さ、やりがいについて話してもらいました。
東洋電機商会では、受注から価格の決定、メーカーへの発注、納期管理、荷受け、書類作成、配送まで営業が一貫して担当します。
配送まで担当するんですね。
それも配送業者に任せず、直接渡しに行きます。当然、お客様とお会いする機会も多い。おかげで「お、また来たな」みたいな距離感で関係を作っていける。そこは営業の醍醐味です。そういうお客様に「これ、ない?」って聞かれたときに、「あります!」って応えられるのはうれしかった。必要とされるものを作り、提供できる楽しさも味わいました。
営業の仕事を始めたとき、苦労したことはありますか?
扱っている商品がとにかく多くて(笑)。営業を始めた頃は「この商品がほしい」と言われても、そもそも何に使われるものなのかもわからなかった。すべてに対応しようとすると、広く浅くなっちゃうんです。これで本当にお客様の手助けができるんだろうかって悩みましたね。
たしかに大変。そこはどう克服していったんですか?
取引先メーカーの商品研修に参加させてもらって、機器の仕様などを勉強しました。それが大きな財産になりました。あと、社内にも技術のスペシャリストがいますから、わからないことは相談できる。それも心強かったです。
尾田さんは現在総務部に所属。社員研修も担当しているということですが、どんな研修を行っているんでしょうか?
今年から導入したのは、150講座ある外部セミナーを自由に受講できるカリキュラム。自分に足りていないもの、必要なものを自発的に選んでほしいということで始めたそうです。
ほかに営業職向けの「ワーク型営業研修」や、尾田さんも経験した外部の商品研修など。ワーク型営業研修は、王さまのためにカレー作りをするという設定で、ものづくりに大事なことなどを自然に学べる内容になっているとか。チームで競うと盛り上がるそうです。
「教育や評価制度に関しては、中小企業だからこれでいい、ということはないと思っています。内容は、大企業がやっていることとまったく同じです」ときっぱり。最後は頼もしい総務課長の顔になって、締めてくれました。
さまざまな町工場をパートナーに、大企業にはできないアプローチでものづくりに貢献している姿を見せていただきました。研修の充実ぶりにも驚いたけれど、さらに長期休暇の取得促進や手厚い福利厚生など、社員のワークライフバランスにも気を配っているそうです。
お客様や地域の絆、そしてなにより自分たちのオリジナリティを大事にしている会社だなあと感じました。
株式会社東洋電機商会の
- 無理に会社を大きくしようとは考えていません。少数精鋭のメンバーで、お客様に寄り添い、困った時に頼ってもらえる会社であり続けたい。そうした大企業にはできない仕事をしていくのが、東洋電機商会の使命と考えています。また、社員の1/4を占める20代の若手社員が独り立ちし、お客様に貢献できる人材になるよう育成していきたい。
- 会社のポジショニングはブレることなく、ニーズに合わせた販売品目の拡大を狙っていく。また、確実に世代交代による事業継承の波が来るので、そのとき現在の若手社員たちが、各事業所のトップとして部下を率いる存在になっていてほしい。そうした人づくりによって30年後、またその30年後と、100年続く会社をめざしています。