情報通信の発展を支えてきた老舗。新しい分野、販路の開拓も
こんにちは! 『おおたシゴト未来図』レポーターのハセガワです。
今日は京浜急行穴守稲荷駅からトコトコ8分ほど歩いて「株式会社山小電機製作所」にやってきました。社名の山小は「やまこ」って読みます。なんだか親しみがわきますね。
実は作っているモノも、私たちの生活にとっても深い関係があるらしいんです。なんだろう? じゃあ、さっそく取材開始!
まずは、社長の小湊 清光(こみなと きよみつ)さんに話を伺いました。
「弊社が主に作っているのは、携帯電話会社の通信基地局で使われているアンテナの支持機材や制御盤です。NTTドコモ、au、ソフトバンクなど、どの携帯電話会社も取り引き先なんですよ」
なーるほど! いまや私たちの生活になくてはならないスマホ。その通信を支える役目をしているんですね!!
そういえば、スマホはつながって当たり前と思いがちだけど、少し前までは、携帯電話が圏外になる場所がたくさんあったんですよね。いま、電波を意識することなくつながるのは、日本中いたるところに通信基地局のアンテナが立ったから。ふだん気にしていないけれど、注意して見回せば、マンションやビルの屋上に細長いアンテナが……、ある、ある、ある! そして高いビルがない場所には、ど~んと大きな鉄塔も!
その基地局で活躍しているのが、山小電機製作所が作ったさまざまな建設用機材。そうか、私たちは山小電機製作所にお世話になっていたんですねえ。
会社の設立は昭和8年。戦前から、今のNTTの前身である逓信省の仕事で通信機器を作ってきました。
逓信省!? わあ、歴史を感じます。
昭和30年代、無線ルートの構築が行われるようになって、その無線の材料や、全国各地の電話局の設備や基礎部材の設計、製作を担当しました。当時はそうしたものを扱えるのは弊社だけ。その流れを受けて、今の携帯やスマホの仕事につながっているんです。
山小電機製作所の強みは何ですか?
老舗であること。それと、現地調査から設計、製作、施工まで一貫して請け負う技術と設計力。特に強度計算を含めた設計力は自慢です。
そんな老舗企業が、新たなチャレンジを模索中だとか。その一つが、AEDボックスの製作といった医療分野へのアプローチ。もう一つが、防災・減災用品の開発です。その自社製品を小湊社長が直々に解説してくれました。
まずはコレ、「落下防止センサー」。地震が発生したときに棚からモノが落ちるのを防ぐ装置です。
実際に揺らしてみると……、あ! パーンという音とともに隠れていた蛇腹が跳ね上がって、棚の前面をカバー。すごい、手品みたい! たしかにこれならモノが落ちません。大事な機械を守りたい場所などに使える。ニーズはたくさんありそう。
手品のような仕掛けの鍵は、棚の下に置かれたセンサー。中の球が、揺れでまわりの電極に触れると電源が入るんです。どれくらいの震度で作動させるかという設定も可能。さすが芸が細かいですねえ。
この仕組みを応用して、地震の際、自動的に扉が開いて中の鍵が取り出せる「自動解除ボックス」も開発。東日本大震災のときの教訓をもとに作られたそうですよ。
こちらは「感震ブレーカー」。感震ブレーカーは他社製品もありますが、作動する震度や時間設定ができるのは、山小電機製作所の製品だけだとか。こちらも芸の細かさが強み! お客様の要望に寄り添ったものづくりをしている証ですね。
今後これらの製品を積極的に展示会に出展。国内だけでなく、アジア各国やアメリカ、ニュージーランドなどの海外にも販路を広げようと考えているそうです。
最新の加工設備とプロフェッショナルなワザで信頼の製品づくり
では、実際に製造している工場を見てみましょう。実を言うと私、機械大好き、工場大好き女子なんです。わくわくが止まらない!
案内してくれるのは、入社1年目の青木貴宏さん。優しい笑顔が魅力的なメガネ男子です。よろしくお願いします。
- 青木 貴宏(あおき たかひろ)さん
- SE事業部 技術部所属。工学院大学でロボット制御を学ぶ。大学が支援する学生プロジェクトでNHK大学ロボコンに参加。ロボットの設計を担当し、3年生のときに本選にも出場。大田区の企業が一堂に会した就職説明会で山小電機製作所に出会う。設計者を積極的に採用していた山小電機製作所なら学んできたことを活かせると思い、入社を決めた。
工場は天井は高いし、オリンピックのバスケットボール会場にもなりそうな広さ。床にも注目。すっきり整理されていて、機械は白いライン内にきれいに並んでいますよね。これは5S活動の一環。全員で整理整頓や清掃に取り組んでいるそうです。社員のアイデアで、部品も色分けされて一目で置き場所がわかるようになっていました。
わわわっ、見てください! この迫力ある機械! これはテンション上がります。
これは3次元レーザー加工機で、横の長さは14メートル、奥行き7メートルあります。何十トンという重さです。昨年入ったばかりの機械なんですが、搬入に一週間、組み立てるのに2週間かかったらしいです。都内にはまだ、ここにしかないんですよ。
へえ~、すごい機械なんですね。ときどき、ガターンって大きな音がしますが、どんなものを作っているんですか?
主にリブっていう支柱の補強金具ですね。ほかに小型アンテナ用の金物とか。
ここに並んでいる長~い鉄材、これを加工するんですか?
そうです。ここにあるのは6メートルの角パイプ。それが順に真ん中の機械本体に送られ、切断、穴開け、ネジ切りなどの加工を同時に行います。角パイプのほか、H鋼や山型鋼などの寸法の長い鋼材に複雑な加工ができる。そこがこの機械のすごいところです。
あ、加工している様子が覗けるんですね。きゃーっ、火花が散る瞬間、かっこいい!
レーザー加工機のそばでは、バリを取った部分にもういちどサビ止めを塗る作業が行われていました。レーザー加工のような最新の機械加工もあれば、丁寧な手作業も。一つの製品が出来上がるまでには、両方が欠かせないんですね。
そして、こちらではガスバーナーで鉄の棒をU字に曲げる作業。 バーナーが出たときの音はものすごい迫力。でも、ホントきれいだなあ。
ものづくりって、プロフェッショナル感にあふれてる! そんなことを感じました。
製品の大きさや現場をイメージしながら常に図面に向き合う
工場の雰囲気を堪能したあとは、青木さんが働く4階のフロアへ! 設計を担当する技術部です。青木さんは、どんな仕事をしているのでしょうか?
2DCADで細かい図面を描いたり、レーザー加工用のデータを作成したりしています。実際に加工する人たちへの指示書のようなものですね。
あ! それがあの3次元レーザー加工機の作業につながるんですね。設計で苦労するのはどんなところですか?
図面上、重なって陰になる部分。立体になった形を想像したり、文字から読み取ったりしながら設計図に落とし込んでいく。そこが難しいですね。
大失敗っていう経験はありますか?
図面を左右逆に描いてしまったことがあります。そのまま加工され、現場から「穴が合わないよ」ってクレームが来て。工場にも施工の人たちにも迷惑をかけちゃいました。
当時、なにか先輩からのアドバイスはありました?
あの頃は、間違ってるって言われたところを言われたとおり修正するので精一杯。そんなとき先輩が「青木はこのへんのミスが多いよ」って指摘してくれたんです。それをきっかけに意識してチェックするようになり、ミスを減らすことができました。
設計から施工まで社内で一貫して行っているので、仕事がやりやすいと青木さんは言います。「ここ、おかしいな。どうなっているんだろう」と思ったらすぐに確認の電話ができる。逆に、レーザー加工の担当者から「このデータだと動かないよ」という電話が来れば、すぐに工場に降りていって原因を探し、データを直す。おかげで1階の工場と4階フロアを何度も往復。そんな経験もあるようです。
入社直後の研修で、いろいろな部署を回ったそうですね。施工現場にも行ったんですか?
行きました! 高いところが苦手なので、海沿いの20メートルの鉄塔はあまり思い出したくないけれど(笑)
研修の体験は、その後の仕事に役立っていますか?
もちろん。図面上では小さな2メートルの柱も、実物がビルの屋上に立つと、でっけ~なあって。それを実感できたから、何人で設置できるかなとか、エレベーターに入るかなとか、作業をイメージしながら図面に向き合えるんです。
画面だけ見て設計するのとは違ってくるわけですね。
設計してから実際にモノができるまで、3週間ほど。自分が描いたものが出来上がって並んでいるのを見るのが楽しみだとか。「形になって、そこにあるっていうのが感動なんです」とうれしそうに語ってくれました。
いまの目標は「とりあえず一人前になること」。あら、ずいぶん控えめですね。
「図面を描くだけでなく、先方とのやりとりや、組み立てに必要な部品の手配、配車など、最後に送り出すところまでこなして一人前。覚えることがまだまだあります」
実は最近、ボルトの手配なども少しずつ担当しはじめたのだとか。「ちょっとずつですが」と控えめな語り口からも、スキルアップへの熱意はひしひしと伝わってきました。
昭和、平成と、情報通信社会の発展を目立たないところで支えてきた山小電機製作所。広い工場の中ではいろいろな作業が行われていて、とにかく楽しい取材でした!
設計と製造、施工が一体となっているからこそ、それぞれの仕事が見える、実感できる。それは、ものづくりの環境として、とても魅力的なことなんだなと感じました。
株式会社山小電機製作所の
- 中期目標として営業利益率3%、自己資本利益率60%を掲げる。また、目標利益を達成したら社員に特別賞与として還元するプロフィットシェアリング制度を導入。社員のモチベーションUPを図るとともに、配分の実現に向けて努力していく。さらに将来への種まきとして、通信業界以外へのアプローチや海外販路の拡大をめざします。
- 2020年の東京オリンピック後、次期第5世代移動通信システムへの投資が一段落したのちの携帯電話業界の展望は不透明。そのため流れをいち早くキャッチすることが肝心。アンテナを広げ、より早い情報収集が大事だと考えています。医療や防災など、通信業界以外への種まきを実らせ、100年企業をめざしていきたい。