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代表取締役社長 酒造氏(左) 管理部マネージャ 髙野氏(右)
(photo by Nozomu Ishikawa / JOURNAL by HANEDA INNOVATION CITY)
大田区では、羽田イノベーションシティを様々な先端技術の実証実験の場とし、得た成果を区内に還元しています。
今回はその一環として『羽田第1ゾーンスマートシティ推進協議会』が、令和6年度 国土交通省 スマートシティ実装化支援事業に採択され、「見守りスピーカー」の実証実験を行ったSolidSurface株式会社の酒造(みき)社長にお話を伺いました。
―会社の概要を教えてください。
当社は、デジタルテクノロジーにより人々の幸せの社会の実現を目指すことをミッションとしています。人はより人らしく暮らし、面倒なことはAIやロボットに任せるというビジョンを掲げ、現在は3つの事業を展開しています。
まず1つ目が協働ロボットの導入支援です。協働ロボットというのは、文字通り人と協力して働くロボットのことです。最近レストランなどで見かけるネコ型の配膳ロボットなどがこれにあたります。当社の強みは効率化推進のためお客様の業務を細かく分析し、ロボット導入のメリットをピンポイントで提案できることだと考えています。
2つ目がDXのコンサルティング事業です。お客様のデジタル化を進めて業務改革の支援を行っています。3つ目がHR事業で、システム開発などを行うエンジニアの派遣を行っています。
―ご自身のキャリアと創業の経緯を教えてください。
私は大学卒業後、建設機械メーカーに就職し、ロボットやパワーショベルといった機械制御のシステム開発を担当していました。その後いくつかの会社を経験しましたが、いずれもロボットや制御に携わってきました。主に溶接や組み立て作業を行う産業用ロボットをメインにやってきましたが、2018年頃から移動ロボットが普及しだしたことがきっかけで、情報通信研究機構で技術研究員として無線技術の研究に携わることになりました。
その時にロボットを動かすには携帯電話の干渉がない周波数、無線技術が重要だと感じ、これを普及していきたいという思いから起業しました。また、ちょうどその時期に羽田イノベーションシティでのロボットの実証実験の仕事についてお声がけいただいていたことも後押しとなりました。
―「普及していきたい無線技術」とはどういうものなのでしょうか。
Wi-SUN(Wireless Smart Utility Network)という無線技術で、4Gやwi-fiなどと比べるとデータ量は多くないものの、通信距離が長く障害物の影響も受けにくいのが特徴です。また、総務省から無料で使えるバンドを割り当てられているため通信費がかかりません。実は、関東圏で多くの家庭やビルに普及していて、東京電力のスマートメーターに標準採用されています。最近、家庭に検針に来なくなったのはこの技術のおかげです。
ロボットの移動指示であればこのWi-SUNの通信で必要十分であり、すでに街中に普及しつつあるネットワーク網であるため、新たに敷設する必要がありません。
この技術が使えるようになれば、携帯電話の干渉も受けることなくロボットの遠隔誘導なども可能となり、様ざまな社会課題の解決にも繋がると考えています。
―羽田イノベーションシティで行った実証実験はどのようなものなのでしょうか。
今回行った「見守りスピーカー」の実証実験は、LiDARセンサーによって通行の妨げとなるような滞留を検知し、エッジコンピュータが状況を判断してお声がけをするとともに、ネットワークを通じて必要な人に通知するという一連のシステムです。
LiDARセンサーとは車の前面についている衝突防止センサーなどにも使われているものです。普通のカメラは自然光を用いて撮像するのですが、外乱光の影響や自然光が弱いところでは綺麗な画が撮れません。これに対してLiDARセンサーは自らレーザーを照射し、その反射によって対象物を捉えるため、明るさの影響を受けず位置や形状まで正確に検知することができます。この技術を用いて混雑時や暗所でも座っている人や倒れている人を見つけられ、将来的には体調不良者の検知にも活用できると考えています。
出典:(見守りスピーカーのシステムイメージ図|SolidSurface株式会社)
―今回の実験を踏まえて見えた課題などはありますか。
一番の課題は検出精度です。センサーだけでは対象者の状態を一元的に把握できないので、統計や機械学習によって具合が悪そうだと判断できるデータを蓄積していく必要があります。今後もさらに実証実験を繰り返すことで、見守りという安心安全な社会の実現に貢献していきたいです。
出典:(羽田イノベーションシティにて到達範囲の広い電波規格「Wi-SUN FAN」によるロボット遠隔誘導の実証実験に成功|日新システムズ)
―最後に、今後の夢や展望についてもお聞かせください。
私の今までずっと考えてきた1つの研究テーマとして「見守り」があります。
今回の見守りスピーカーのネーミングについても監視カメラではなく上手に「見守る」という思いが込められています。100%を目指して見張ってしまうと監視になってしまいますが、ますます進む高齢化社会のなかで、お年寄りに寄り添う形で見守るというアプローチが必要になってくると思います。普通のAIスピーカーは人が話しかけて初めて会話が始まりますが、スピーカー側からお声がけすることにより会話が始まることで一人暮らしのお年寄りが楽しく生活できるようになるかもしれません。お年寄りの方だとITが苦手だからと敬遠してしまう方もいますが、その部分をAIができるだけサポートできる仕組みづくりを実現していきたいと考えています。
―ありがとうございました。
SolidSurface株式会社
設立:2022年6月
住所:東京都千代田区神田錦町1丁目13番地大手町宝栄ビル303
ウェブサイト:https://www.solidsurface.co.jp/