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- > たどり着いた江戸前、根を張るハーブ。【前編】
大田区大森東。一軒家やマンションが立ち並ぶ、閑静な住宅街が広がっている。都内であればどこでも見かけそうな風景とも言える。 その一角にあるのが「江戸前ハーブ」の室内農場。 元々、半導体関係の製品をつくる町工場であった建物で、今はハーブが栽培されている。 しかもそのハーブは美味しいと評判で、有名レストランやシェフから熱い視線が注がれているという。
江戸前ハーブ 代表 村田 好平 氏
大阪大学 外国語学部 卒
一見、簡素なつくりの建物だが、扉を開けると奥の部屋から特徴的な紫色の光がこぼれている。入口で想像していたよりも、奥まで広がる空間が扉越しに見える。特別な目的のための、特別な場所だということがすぐに分かった。元気にご対応いただいたのは代表の村田さん。2021年に江戸前ハーブを創業し、以来、この場所で生産者、そして経営者として辣腕を振るっている。
─大田区は町中に工場があるのは珍しくないのですが、ハーブの室内農園があるのには驚きました。どのような経緯でこちらでハーブをつくることになったのですか。さまざまな経緯があったのですが、この事業は私のこれまでの経験が重なり合った着地点だと感じています。私のキャリアから話すと、かなり入り組んだ話になりますが。
大学に入学して、卒業して、企業に就職するというのが一般的なキャリアのスタートになると思いますが、ぼくの場合、大学の雰囲気やノリのようなものが合わないと感じたのもあり、早い時期に大学には行かなくなって。
「自分探し」的な活動をはじめて、海外のボランティアに参加したりしていました。そして、20歳の時に大学を休学してアメリカに5ヶ月滞在。昼は語学学校、夜はアルバイトをしていて、そこで見つけた日本食レストランのバイトで、はじめて料理の世界に触れて。仕事は皿洗いや雑用ばかりしていましたが「料理人ってかっこいいな」と感じたことをよく覚えています。これが私の「食の世界」の入り口と言えますね。
その後、オーストラリアでレストランのウェイターを経験。日本に帰国後、大学に通いながら大阪のレストランでコックの仕事をはじめて。大学は7年かけて卒業しました。
そのレストランはあまり経営がうまくいってなかったので、24才の時にオーナーに直談判して店長にしてもらいました。自分ならうまくやれる自信があったんですね。実際、1年目から黒字化することができました。
この頃から「地産地消」「オーガニックな食材」に興味を覚え始めて、レストランの料理にもそれらをふんだんに使うようになっていきました。ただ、2年目から自然食・オーガニックに傾倒しすぎてしまって。今考えるとお客様のための美味しさよりも、オーガニックを使うことの「正しさ」を追求していました。結果、売り上げにも影響が出て赤字を出すようになっていって。
自分も余裕がなくなっていき、従業員に厳しく当たるような時間が続きました。ある時、その店のボトルネックになっているのが自分だってことに気づいて、退職を決めました。
レストランを辞めた後はなにも決めていませんでした。何のあてもなく辞めたので、時間だけがある状態でした。
そんな折、テレビ番組で「梶谷農園(かじやのうえん)」を見ました。広島県でハーブを栽培している農家なのですが、そこのオーナーの梶谷さんがすごい人で。憧れのような感情を抱き、求人情報もなかったのですが履歴書を送ってみました。
すると梶谷さんから連絡をいただいて。「今は人の採用はしてないけど、遊びにおいで」と1か月間、宿とご飯を面倒見てもらいながら、仕事のお手伝いをさせてもらいました。
その後、一度兵庫県の実家に戻ってから小規模ながら貸農園をはじめました。家庭菜園のようなレベルですが、そこでハーブをつくることを始めました。お金を稼ぐような段階ではなく、配達員のバイトをしながら生計を立てていました。
そこから1年くらいして、梶谷さんから淡路島で畑をはじめるというお話しをいただいて。人が必要だから来てくれ、ということで8か月という期間限定のアルバイトというかたちで、淡路島でハーブ栽培などを経験しました。
その8か月間で色々考えたことが、今の事業の基になっています。
淡路島での仕事は8か月という期間が明確に決まっていました。それが終わった後、どうするか。フリーターを続けるか、もしくは起業、という決断のタイミングだと考えていました。
起業・商売をやっていくのならどういう形がいいか。
自分なりに学び、考えたのが農家の課題についてです。「作物には生産できる期間・条件が決まっていて、それに従わなければならない」という厳しい事実があります。
淡路島は自然の環境が厳しく、6~10月は作物の栽培ができません。1年のうち、かなりの期間、物を生み出すことができないんです。結果として、屋内での栽培に目を向けるようになりました。
ただ、屋内でも水耕栽培は難しいと考えました。参考にしたカナダでは水耕栽培の大規模施設がうまくいっていないという情報もあって。理由のひとつは電力料金の上昇ですね。また、安定して生育・収穫できるというメリットはありますが、味については大きな向上が望めないという側面があります。そうすると高くは売れないので、利益率を上げていけない。
そんな中で淡路島と同じように自然環境の厳しいカナダのトロントでは、室内の土耕栽培が伸びているということを知りました。
淡路島にいる時、空いている時間でネットやyoutubeでカナダの室内農業の情報をひたすら集めて、自分なりに勉強・分析を進めました。そして、その手法を日本ではまだやっているケースがほとんどないこともわかりました。
その中で出した結論が「東京でハーブをつくる」です。
江戸前ハーブ
創業:2021年8月
住所:大田区大森東5-36-5
ECサイト:https://goodfeels.thebase.in/
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