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大田区の工場アパート「テクノFRONT森ヶ崎」に拠点を置く、東大発スタートアップ起業の株式会社Xenoma (ゼノマ)の新製品が昨年、令和5年度東京都ベンチャー技術大賞 の奨励賞と、第35回大田区中小企業 新製品・新技術コンクール の最優秀賞を受賞して注目を集めています。今回は、網盛 一郎Co-Founder & 代表取締役CEOにお話をうかがいました。
私のキャリアのスタートは国内のメーカーです。そこでは主に技術開発・新規事業の開発に携わっていました。さまざまな仕事に携わる中、先端技術を具体的な形やサービスにするには、広い視野や考え方が必要だと感じるようになり、会社の留学制度を利用して米国の大学に留学し、博士号を取得しました。留学先では求めていたイノベーティブな視点・思考を身につけられたと感じましたが、ただ当時は、起業や独立は意識していませんでした。
メーカーを退職後、数年フリーランスのような形で企業や大学のプロジェクトに参加している期間がありました。その時期に、2014年の東京大学・科学技術振興機構 ERATO染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト(柔らかく、かつ生体と調和する分子性ナノ材料の特異的な機能を生かし、生体とエレクトロニクスを調和させ融合する新しいデバイスを実現するプロジェクト)へ参画したことが起業のきっかけとなり、2015年11月にXenomaを起業しました。
─特徴的な会社名ですが、込められた意味や想いをお聞かせください。起業するにあたり、我々が目指したのは衣服によるバイタルデータのセンシングです。ただ単にセンシングを目的とするというよりは、生活の中で簡単に自分自身のバイタルデータにアクセスできる、人と機械のインターフェースをつくりたい、という想いがありました。
「xeno」は英語の接頭辞にあたるもので「ちょっと変わった新しいもの」という意味があります。manとmachine(人と機械)からmaを取り「ちょっと変わった、人と機械のインターフェース」を表すイメージで、Xenomaとしました。
また、「e-skin makes everyone's life HAPPIER and HEALTHIER.」というビジョンにはこのインターフェースによって人々を幸せ、健康にしたいという想いが込められています。
─企業当初から現在まで大田区を拠点とされていますが、その理由を教えてください。さまざまなご縁があってのことですが、大田区を拠点に選んだ一番の大きな理由は、当社が扱うアパレル製品をつくるのに大規模な機器・設備が必要となるため、それに対応できる広い敷地を求めていたからです。ここ「テクノFRONT森ヶ崎」はユーティリティを含めて非常に充実していて、機器を入れるには最適と感じて入居しました。
また、ものづくりに関する知識を持ち合わせていない中で、大田区がものづくりの町であり、頼れる企業が多くあることも大田区に拠点を置く理由となっています。近くに色々な業種の企業さんがいるので、情報収集がしやすいという点も魅力です。
当社の新製品であるe-skin ECGは、受検者自身が自宅で装着・検査できる「三誘導によるホルター心電図検査の郵送サービス」です。
ホルター心電図検査は、不整脈や虚血の検出を目的として、循環器領域で用いられる検査です。心電用電極を身体の複数箇所に貼り付けて心電図のデータを取るため、一般的に電極を適切な位置に貼り付けられる専門知識を持つ医療従事者が行っています。
加えて、24時間かけて心電図を測りますので、計測開始時と終了時に病院に行き、検査装置の装着・取り外しを行う必要があります。また、検査機を装着している間は入浴ができないなど、行動・動作が制約されるといったデメリットがあります。
─検査自体に大きな負担が伴うものなんですね。はい。このような状況の中、検査を行っていた受検者さんの「検査機のコードがジャラジャラして煩わしい」という言葉をきっかけにe-skin ECGの開発をスタートしました。
まず、最初にあった気づきは、ホルター心電図検査において「電極を装着する位置は決まっている」ということです。位置が決まっているということは、代替手段があれば医療従事者が装着作業をする必要はありません。
開発当初は受検者の生活の邪魔にならない、なるべくスタイリッシュで負担が少ない心電図検査の実現に焦点をあてて開発をスタートしました。実証実験を進めていくうちに「検査ケーブルが最初から衣服に埋め込まれて装着する位置さえ決まっていれば、医療従事者が介在しなくても受検者自身で装着・計測できるのでは」と気付いたことからサービス全体の構想が定まりました。
専門知識が無くとも、受検者自身で装着・計測出来ることで、医師のみならず、看護師や検査技師など医療従事者の負担を減らすことにもつながります。
─製品だけでなく「サービス」という形での提供になったわけですね。サービスの全体像を教えていただけますか。医療機関から当社に検査の申し込みが入ると、当社は検査装置が組み込まれた「計測用シャツを含んだキット」を受検者さんへ郵送で送付します。受検者さんは自身でシャツを着用し、計測を実施します。計測後、データを蓄積したキットを当社に返送してもらいます。
次に蓄積されたデータを当社で解析し、解析結果をレポートとして医療機関に提出します。受検者さんは医療機関を通して検査結果が伝えられるという仕組みです。
─受検者さんは何度も病院に行く必要がなくなりますね。
そうですね。そこが一番のメリットになります。また、医療機関側にも大きなメリットがあります。先ほど申し上げたように医療従事者の負担を減らすことに加えて、ホルター心電計の導入にかかる費用をなくすことができます。現在では大学病院やクリニックなど、280以上の施設でこのサービスを導入いただいています。
はじめは、大規模な病院などには需要はないかなとも考えていました。理由はすでにホルター心電図計を持っていて、自前で検査サービスを行えるからです。しかし、最近は大学病院などの導入も増えてきました。心臓の病気は再発することも多く、術後の検査で通院が必要となるケースが多いのですが、心臓の手術を行えるような病院は数が少なく、ほとんどの患者さんにとっては遠方になります。術後の患者さんのような方にこそ、通院の負担が重くのしかかりますので、やはり自宅での検査というのは大きな福音になるのでしょう。
現在、e-skin ECGは中学生程度の体格の方から利用可能となっていますが、将来的には、小学生なども利用できるよう開発を進める予定です。
このサービスには大きな可能性があると考えていて、そのひとつとしては「心電図データの活用」です。e-skin ECGの利用の際には、毎回受検者さんからデータ収集の同意書をいただいており、計測データを蓄積しています。もちろん個人情報は一切省き、匿名に加工した状態での収集です。
ホルター心電図検査で記録される受検者の心拍数は1日に約10万拍に及びます。この10万拍のデータの中にはブレや誤差が発生する可能性があるため、都度、検査技師が目で見て判定しているんですね。
1件、24時間の心電図を解析するために、検査技師が4〜5時間かけているのが現状です。ただでさえ忙しい検査技師がかなりの時間を注ぐ仕事になっています。たとえば、この作業をAIで代替できれば、検査技師の作業量を劇的に減らすことができます。
また、心電図検査とは別に「心エコー検査(心臓超音波検査)」という検査手法もあるのですが、これは結構労力がかかる検査で、誰でもかれでも簡単にやれるものではありません。この心エコー検査でしか見つけられない病気を、心電図だけで見つける、というプロジェクトも進めています。
将来的には患者さん・受検者さんが自身のデータを自由に使えるようなサービスをつくりたいと思っています。たとえば、心電図の計測データから自身の疾患を発見したり、過去の検査データと比較して、疾患の状況を自分で確認できるような未来を実現できるかもしれません。受検者さんのデータは受検者さんのもの。誰もが自身のデータを活用して、個人の健康や幸福に資するような環境をつくり出せていければいいなと考えています。現在はそれが実現できる環境や条件がどうすれば揃うかの検討を進めています。
─ありがとうございました。株式会社Xenoma
設立:2015年11月
住所:東京都大田区大森南4-6-15
ウェブサイト:https://xenoma.com/
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