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2017年08月01日 公開
国内市場の成長鈍化と大手企業の海外進出に伴い、町工場もグローバル市場に向けた戦略をとるケースが増えている。地域の中堅企業をはじめ、創業して間もないベンチャー企業も大田区製造業の集積の強みを活かし、グローバル市場に挑戦している。新規取引の獲得や販路開拓をするために必要なことは何か。企業拠点を大田区に置きながら海外ビジネスに取り組んでいる区内企業の先行事例をリポートする。
大田区で昭和25年に創業し、リーマー、カッター、エンドミルなど精密切削工具の製作に特化する栄工舎(大田区蒲田)は年商13億円の老舗企業である。生産した精密切削工具は、自動車や航空機、医療機器などあらゆるものづくりの現場で使われている。同社の製品は他社にはない形状のものが多く、標準品の他、オーダーメイドの引合いにも応えられるため、取引先から非常に評判が良い。大田区で設計し新潟工場で生産した製品は、代理店や商社経由で国内外の数千社に納入されている。40年前に始めた台湾ビジネスをきっかけに、現在はアジア、アセアン、欧州など22ヵ国と取引を行い、海外への売り上げは総売り上げのうち1割を占めている。「色々な国と付き合わないと受注が増えない。景気が良い国から仕事をもらえるように間口を広げないといけない」(熊田 実副工場長)。
海外展開に挑戦しつづけた40年
同社は海外展開を始めるにあたり、まず大田区産業振興協会(以下「協会」)主催の海外見本市に参加した。そこで海外代理店を見つけ販路を開拓し、現在はアジアを中心に海外代理店10社と契約を結んでいる。「大田区の海外支援策は、先駆的で、現在も活用している」(熊田副工場長)。
海外企業と取引を行うには語学力も必要となる。同社の海外代理店には日本人が在籍するか、日本語を話せる現地スタッフがいる。本社では海外展開に対応できるよう昨年度はネパール出身のスザンさんを採用し、英語による問合せの対応や都内の外国企業向けの営業を行っている。海外でニーズがある場合、現地代理店と本社のスタッフが一緒に出張し、日系やローカル企業に対して営業し販路を開拓している。ドイツやオーストリアでは主にローカル企業に販売され、デンマークでは商社経由でアウディの工場に製品を納入している。海外にも切削工具メーカーがたくさんある中、同社の製品が人気な理由は「価格対応ではなく、多品種+高品質+営業力」(熊田副工場長)という。同社のホームページは日本語、英語に更に4ヵ国言語を加える準備中である。今年9月には新潟にある二つの工場の統合により生産体制が整備される。次のステップとしては、海外生産拠点の設立などが視野に入り更なる飛躍が期待される。
大田区育ちのベンチャーが世界へ
Xenoma(大田区大森南)は、東大発のベンチャー企業として昨年5月に大田区の工場アパート「テクノFRONT森ヶ崎」で開発を本格スタートし、スポーツ、ヘルスケア、医療分野に応用できるスマートアパレル(衣服型エレクトロニクス)を製造、販売している。「いつでも、どこでも使用可能」「身体の動きを認識できる」「着心地のいい」衣服のエレクトロニクス化に成功した。同社のIoTシャツ「e-skin」は、今年の2月、法人向けのソフトウェア開発プラットフォームが全世界に向けて発売され、毎年ラスベガスで開催される世界最大の家電見本市International CES 2017でInnovation Awardを受賞するなど、世界的に大きな評価を得ている。
起業当初、開発拠点探しに悩んでいた際に当協会に相談したのが「テクノFRONT森ヶ崎」への入居のきっかけとなった。「大田区の支援は各企業に密着しているので実務的に役に立つ。ものづくりの町ならではの施設は使い勝手が良く、多種多様な企業が集積しているために、すぐ仕事をお願いできる」(網盛 一郎社長)。従業員23名の同社は、既に米国支社が設立され、今年中にはドイツにもオフィスを立ち上げる予定である。また、同社のホームページは英語のみとなっている。「敢えて英語のみで発信することによりグローバル市場を狙う。結果的に会社へのアクセス件数が増えた」(網盛社長)。
「e-skin」を海外デビューさせた後、今年からは徐々に国内市場の開拓に力を入れ始めた。法人向けの製品だけではなく、個人向け市場への参入にも取り組んでおり、まずは世界規模を誇る米国のクラウドファンディングサイト「キックスターター(kickstarter)」への出品を準備中である。大田区の製造業集積の強みを活かしながら先端技術で世界に挑戦する期待の新星である。
2017.8.1
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