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- > 町工場における人材採用の最前線 ~外国人留学生の確保に向けて~
2018年04月06日 公開
景況感の回復や国内の深刻な新卒採用不足を背景に、中小企業においても多様な人材を活用する機運が高まり、外国人留学生を採用する意欲は高い。
一方、外国人留学生についても、アジア中心は変わらないが国籍が多様化し、近年はネパールやベトナムからの留学生が急増している。経済産業省の「外国人留学生の就職及び定着状況に関する調査」によると、日本での就職希望者は外国人留学生の全体の約6割と高いものの、日本の就職活動の仕組みや企業研究の方法を知らない等の理由から、卒業後の就職者は3割に留まっている。就職先の7割が中小企業や小規模事業者といわれており、外国人留学生は中小企業にとって知る人ぞ知る人材の宝庫である。このような中、大田区にも外国人留学生を新卒で採用した中小企業がある。どのような採用戦略や採用活動の工夫をしているか、今回はその事例をリポートする。
環境にやさしい水系塗料の開発・製造を主力事業とする太洋塗料(大田区東糀谷)は、社員数18名の内4名が20代で、若手と女性の活躍が顕著な研究開発型の中小企業である。耐久性、作業性、機能性に優れた同社の塗料は、建築や路面標示用等の施工現場で幅広く使われており、取引先からの評判が高い。従来は国内を中心に塗料の販売をしてきたが、今後は海外からの受注を増やし、取引先の間口を広げていくことを目指している。
上記を受け、同社は平成28年秋に協会主催の人材確保イベントに参加し、仙台の専門学校からネパール出身のガネスさん(26才)を採用した。昨年5月に入社し、同社初の外国籍の社員となる。「東南アジアとの取引や通訳等国際業務を執行するために、現地の言葉を理解できる人材が必要となった(林常務)。」
ガネスさんはネパールの先輩に勧められ4年前に来日した。最初は日本語学校に通い、その後、仙台の専門学校に入り国際ビジネスを2年間学んだ。他の留学生と同様に日本企業へのアプローチ方法や企業のニーズが分からなかったため、就活に苦労した。その時、専門学校の取り計らいにより、他の留学生20名とともに協会主催の集団面談に参加した。「東南アジア進出を検討しているという企業戦略を伺い、専門学校で学んだことが活かせると思い志望した(ガネスさん)。」
集団面談に参加したネパール出身の留学生はガネスさん以外にも4名いたが、面談後、同社は専門学校に出向き再度面接を行い、役員面接等を経て最終的にガネスさんの採用を決定した。「他の応募者より明るく、日本語のコミュニケーション能力が期待した以上のものだった(林常務)。」外国人採用のための就労ビザの申請・発行要件は厳しく、手続きも煩雑と言われたが、行政書士のアドバイスを得て2週間という短期間でスムーズに取得した。ガネスさんは、入社後最初の3か月間は社内のOJT研修を受け、現場(工場)においてマンツーマンで塗料の知識を基礎から学び、それから自社製品の説明ができるように訓練したり、英文のパンフレットやインボイスの作成に携わったりしながら経験を積んでいる。同社においては初の外国人採用であったため、言葉の壁や意思疎通面でのトラブル等を心配したが「むしろ現場からはガネスさんの評価が高く、他の部署から彼を欲しいとの声もあった。営業面でも大きなトラブルもなく、入社10カ月にして中々の人気者(林常務)。」
同社では、今回の採用をきっかけに今後も外国人留学生を採用することを視野に入れている。将来的には、ガネスさんが海外市場開拓のパイオニアとなり、東南アジアに事務所を構え、リーダーとして現場を仕切るという展望を描いている。外国人の社員を定着させ、更に活躍してもらうためには、受け入れ体制を整備し双方が納得できるキャリアパスを設定することが欠かせない。塗料の海外営業に備え、化学等の専門知識習得に励む等、ガネスさんは今日も奮闘中である。
2018.4.6
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