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- > 地元企業との連携でものづくり人材を育成~ものづくり企業との橋渡しを実現するためには~
2019年06月07日 公開
近年、製造業では若年層の就業者数が減少傾向にあり、特に中小企業にとっては若手人材を確保していくことが喫緊の課題となっている。その背景には、中小企業に関する情報の少なさ、知名度の低さ、処遇への不安等、中小企業と若手人材とのマッチングが課題とされている。若手人材を確保するために必要なものは何か。日本初の「デュアルシステム科」(※注)を導入し、ものづくり教育のパイオニア校として知られている東京都立六郷工科高等学校の佐々木校長に、どのように人材育成を行っているかをお伺いし、人材を輩出する側の観点から先行事例をレポートする。
東京都立六郷工科高等学校は、技術や技能の習得を目指す学校として2004年に開校した。全日制と定時制の生徒を合わせ563人、うち7~8割が大田区在住で、その他は品川区等近隣の地域から通学している。
同校は、「企業と連携した教育」を方針に、大田区周辺地域のものづくり企業約270社との間で長期就業訓練やインターンシップ等の協定を結んでおり、企業側からも好評を得ている。卒業生の6~7割は就職の道を選択(うち大田区企業3割程度)されるとのこと。「開校当初から大田区の企業に支えられており、地元企業との連携をもっと深めていきたい」(佐々木哲校長)。
企業のニーズに合致した人材を育成し、地元企業に人材を供給
近年、ものづくり現場で活躍する理系女子やものづくり企業に対する大田区民の意識変化等を背景に、同校も女子生徒が徐々に増加傾向にあり、現在、全体の2割を占めている。
一方、ここ1、2年、私立高校の授業料無償化や特色ある通信制高校の増加により、高校入試の倍率が急低下し、学校側は危機感を強めている。
オートモビル工学科、システム工学科、デュアルシステム科等計5つの全日制課程のうち、現在、オートモビル工学科が一番人気を集めており、その中には中国やネパール出身の在京外国人が5名在籍している。同科は在学中に3級自動車整備士の資格を取ることができ、卒業後は大手自動車メーカーや区内の自動車整備工場に就職するケースが多く、「他の科に比べ自動車は最終製品として分かりやすいということが人気の理由だと思われる」(佐々木校長)。
同校では、2年生全員が2~5日間のインターンシップを経験している。「デュアルシステム科」では2年生、3年生の2年間にわたって年2回1カ月間企業での実習を行い、この実習で単位の取得が認められる。
また、地元の企業と連携し、年1回「企業連携教育成果発表会」を開催し、生徒自らが実習先での就職体験や感想、成果等を企業や保護者向けに発表。
「デュアルシステムの一番のメリットは、企業と一緒に生徒を育てること。育てる過程で企業の経営方針や技術を学ぶことができ、企業側は生徒を知ることとなり、双方のミスマッチを防ぐことができます。学校がものづくり企業との橋渡しとなり、次世代を担う人材を地元の企業に送り出すという狙いがあります」(佐々木校長)。
ものづくりを活かした国際交流
現在、全国には工業高校が531校あり、同校は工業高校として初の国際交流にも取り組んでいる。
ベトナム、インドネシア、台湾等5ヵ国・地域の6校と姉妹校・教育連携校として提携している。「大田区にある工業高校なので、生徒には大田区企業の動向を理解してもらうことが重要であると考えていたところ、海外進出する区内企業が増えているとの話を聞きました。2年前に区内企業に同行させてもらい、タイにあるオオタ・テクノ・パークやベトナムの工業高校を訪問したのがきっかけです」(佐々木校長)。同校の生徒の中には、小・中学校で自分の長所や得意な分野が分からない生徒もいる。
「姉妹校や教育連携校との現地訪問や授業体験等の交流を通じて、生徒の自己肯定感を高めることができました」(佐々木校長)。
充実した教育環境、企業と連携し一人一人を大事に育てることをモットーに同校は挑戦し続けている。「区内企業は親身になって生徒を見守ってくれています。生徒のいいところを見つけ褒めてくれる企業に感謝しています」(佐々木校長)。若者層のものづくり離れが進む昨今、ものづくりの魅力を伝えるには、ものをつくり上げた時の楽しさ・喜びを伝えることが何より重要なのかもしれない。
※注:デュアルシステムとは、ドイツを発祥とする学校教育と並行して企業での長期の実習訓練を行う取組み。インターンシップよりも長い期間で就業訓練を行い、職業教育が中核となる仕組み。
2019.6.7