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- > AI設計で自社技術を残す!業務効率と技術承継について
2019年10月07日 公開
近年、AIを業務の効率化やビジネス拡大のために導入していくことは、様々な業種、業界においてプロジェクトの進行や業務に即した研究開発などで盛んに行われている。
AIが戦略の重点として位置付けられるようなってきている中、設計現場で考えたAIを自社開発の柱として事業を展開しているトープロテクノサービス(大田区久が原)の北條武社長にお話を伺った。
同社は、プリント基板設計の専門会社で、アートワーク設計、レイアウト設計、インピーダンス設計、アナログ設計・等長配線など、電気系CADを扱い設計している。
CAD/CAM融合ソフトは、ファースト社製START、図研社製DFMセンターを駆使し、高精度・高品位パターン設計から多種多様な製造仕様のデータ編集までを同一システムで一貫処理することで顧客にトータルソリューションを提供している。また、設計者は、1級プリント配線板製造技能士を有するほか、同2級保有者を抱えており高い技術力には定評がある。
2015年3月、全株式を親会社から取得し独立する際に代表取締役に北條社長が就任した。業務を進めていく上で、高度な設計技術の伝承をはじめ、新人に対する育成プログラムの充実などの問題について解決策を考えていた。社長の問題意識として「行っている開発業務はアナログからデジタルへの置き換えでもある。このため、職人技のようなアナログ的な設計技術をどうやって伝承していくか、その解決策として設計技術そのものをAI化(AI技術として伝承)できるのではないか」と思いついた。
そして、(公財)大田区産業振興協会が2016年に行ったAIセミナーに社長が出席し現在、東大ベンチャー(株)pluszeroの代表を務める森遼太氏と出会った。その後、共同開発として数カ月をかけてお互いにディスカッションを通じて業務フローの分解をはじめとした「AI設計」のアイデアを固めていった。その間、業務の問題を定式化することが重要とのことでルールベースでの落とし込みを始め、2017年5月に開発をスタートさせた。
2018年6月、同社としては初の出展である電子機器 2018 トータルソリューション展を皮切りに、10月に江戸・TOKYO 技とテクノの融合展、12月に中小企業新ものづくり・新サービス展、令和元年6月にはeX-tech 2019(JPCA Show 2019)、7月に大田区加工技術展示商談会に出展し「AI設計」の学習効果を高めるべく展示会を通じて様々なニーズを汲み取ってきた。今後も公開型の展示会に出展予定である。
「AI設計」とは、CADで開発する「部品配置」と「パターン配線」の工程をクラウドに移行させてAIで自動化させるものである。この作業工程の中で、完成までに修正ループを数回ほど繰り返しながら、出来上がった設計データを「AI先生」がチェックして評価する。このチェックで基準に達したものを設計者である人間が最終確認をする。AIを使った基板設計のプロセスは、①基板の外形・部品(ライブラリ)・ネットの準備、②ルールベース型AIによる多数同時設計、③AI先生が優れた設計を選択(機械学習型AIを活用)、④人間によるチェック、⑤データ出力といった流れである。通常、設計者がかかる時間工数と比べると最大約2/3に時間短縮が可能となる。AIを使うことで同時に多くの設計案ができ、いつでも高品質な設計が可能となることが「AI設計」の特徴である。
「現状は設計者である人間の確認作業が必要だが、将来的には人間のチェックもAIによる自動化を図っていきたい。そして将来的には受注業務からAIによる自動化をできればと構想を練っています。(北條社長)」
国もSociety 5.0の実現に向けて令和元年6月に「AI戦略 2019~人・産業・地域・政府全てにAI~」を公表した。中小企業・ベンチャー企業への支援の中では、AIを活用した中小企業の生産性の向上のために課題解決型AI人材育成事業に重点を置いている。
少数精鋭ながらAIを自社戦略の柱と位置付けた同社の取組みは、製造業やサービス業、商業など業種、業態に関わらず、業務効率や技術承継をはじめ、新たなビジネスチャンスを見つける上で区内企業にもヒントになるだろう。