- > 特集記事
- > 町工場人材採用の秘訣
2020年04月09日 公開
大田区大森北に本社を構える山王鐵工株式会社は、スリッターラインを製造する大田区には少ない完成品メーカーで、平成30年度大田区「優工場」に認定されました。近年の電磁鋼板やステンレス・アルミの薄物スリット加工需要の増加を追い風に、同社の技術力やメンテナンスの丁寧さから同社は著しい成長を続けています。
社員の採用にも積極的に取り組み、令和元年(2019年)には社員(パート含む)を21名から32名まで増やす等、人材不足が続く昨今においてもその規模を拡大させています。
人材採用の秘訣について、同社の髙橋 裕総務部長にお話を伺いました。
-人材採用のきっかけについてお伺いします。
きっかけは人と設備の入れ替えでした。熟練技術者の退職と、老朽化した機械の入れ替えの時期が重なることは前々から分かっていたので、一朝一夕にはいかない人材採用は早めに取り組みました。どの様な人をどの程度採用するか、中長期的な視点で計画性を持って、目先の成果にとらわれず取り組む様に心がけました。
-人手不足が続く中、人材採用が成功した秘訣を教えてください。
採用の門戸を広くしたのが第一です。今までは正社員を主体とした社員構成でしたが、女性比率が今後上昇していくことや、多様な働き方が必要と考え、パートの雇用率向上や、正社員の時短勤務も可能としました。ものづくり未経験者も歓迎し、大卒、高卒と分け隔てなく採用することで幅広い人材を受け入れています。時代に合わせて組織や働き方も変えていく柔軟性を持つことが大切だと思います。
近隣は事務所や工場が多いため競争が激しいと考え、募集は横浜工場(横浜市金沢区)を主体とし、横浜市南部や横須賀等、本社のある大田区よりも南に求人をかけました。バイトやパートの場合、東京と比較すると先述の地域の賃金は低めになりますが、東京基準で募集をすることで、多くの応募を確保することができました。
-採用媒体は何を利用しましたか。
大手人材採用会社のWeb求人掲載と新聞折り込み、ハローワークを併用しました。Webでの求人掲載は多額の費用がかかりますが、採用に繋がらなくても継続的に更新し、掲載し続けることが大切だと感じています。一朝一夕に人材が集まる時代ではないため、長期的な目線で掲載し続けていくことで、採用におけるノウハウを蓄積し、学生等の求職者の考えを取り込んでいくことができます。そこで得られた知見を受け入れの体制構築にも生かすことで、戦略的な採用を行えたのだと思います。
新聞折り込み広告も、有効です。新聞の購読率は減っていますが、現在の購読者層は比較的資産に余裕のある層である可能性が高く、情報に敏感である等、良い人材が潜在しています。折り込み広告とWebを連動させることで多様な層にアプローチできました。Webは情報量も多いため、忘れ去られるのも早いですが、折り込み広告はアナログ故に保管されることも多く、時間を置いて問合せが来ることもありました。デジタルとアナログの掛け合わせが功を奏したのではないかと思います。
面白いことに、業種によってどの媒体を見てきたかが異なり、ものづくり技術系は新聞から、CAD等を扱う設計系はネットからの応募と、職種の色が出ています。
-多様な人材の受け入れについて苦労した点はありますか。
多様な人材、働き方を実現していくためには、社員の理解や協力が不可欠です。自分に合った働き方で入社しても、周囲の居心地の悪さを感じてしまっては馴染めずに退職してしまうケースもあります。若い人材を採用しても、受け入れる土壌が無ければ居場所を失ってしまいます。それを防ぐためにも、採用するからには人生の責任を持つ覚悟で採用し、馴染みやすいように若い人材は近い年齢層でチームを形成する等、会社全体で居心地の良い雰囲気づくりに努めました。
求職者には平成30年度の「優工場」認定時に制作した動画を案内しています。予め工場の様子を見てもらい、会社について深く知ってもらうことで、就職後の齟齬を減らすことができています。嬉しいことに、令和元年(2019年)の中途採用者で離職者はゼロです。
地元の雇用を支えるのも地元の企業として必要と考え、採用した11名のうち、4名は大田区民であり、通いやすいように駐輪場も増設する等、ハード面の整備も行っています。
-採用後の社内環境はいかがですか。
募集は横浜でしたが、横浜と大田区のアクセスは良好であるため、地の利を生かし、人材を流動的に活用しています。また、労働力の確保にはコストがかかるため、ぎりぎりの状況で操業する企業も多いですが、当社ではゆとりをもった採用を心がけ、不測の事態にも柔軟に対応することができています。又、人員に余裕があると社員間の優劣がわかる効果があります。
リクルーティング業務を続けることは、人材の離職防止効果もあり、技術・技能継承にも繋げることができ、社内環境を整えることができました。
転職者の目はなかなか中小企業には向きにくく、区内企業も苦戦を強いられていることと思います。
人材を確保し育てることは難しい課題ではありますが、社内の技術・技能を継承し企業の活性化を進める為にも、計画的に人材を採用し、定着を図り、育てていくことは企業にとって必要不可欠ではないかと考えます。今回の事例を参考に、是非若手人材採用に取り組んでみてはいかがでしょうか。