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2021年02月08日 公開
新型コロナウイルス感染症は人々の日常生活を変容させ、既存の社会システムや経済に大きな影響を及ぼしています。国内外での感染拡大により、政府は2度目の緊急事態宣言を発しました。輸出や個人消費が大幅に減少し、日本経済の先行きが厳しい状況のなか、新たな試みを始めている大田区企業を紹介します。
EC展開で得た気づき 株式会社富士テクノマシン
株式会社富士テクノマシン(大田区南蒲田)は、精密機械部品の加工及び組み立てを得意とし、高精度が求められる半導体や航空機部品をはじめ、幅広い業界の部品製造に携わっています。緊急事態宣言下の令和2年5月、飯室社長の発案で非接触タッチレスツールを開発しました。初めての自社製品で、しかも一般消費者向けの製品。当初は自社Webサイトで紹介していましたが、問合せは少なく大手ECサイトに自店舗を開設することにしました。「ECサイトの厳しい審査基準をクリアして出品しても、類似品に埋もれて反響はイマイチでした。そんな中、大田区長の定例会見で紹介されたこの商品を一人の新聞記者が気に入ってくれ、大田区企業の取組として地方面に掲載されました。さらにECサイトの期間限定セールに参加することで、たくさんの注文がきたんです」(飯室社長)。
自社製品の開発のみならず、消費者が多数利用するECサイトへ即座に展開することで、大きな反響を得ました。
「もともと利益を考えて作ったものではありませんでしたが、今回の取組で自社製品が売れることの喜びを感じました。また、アルミ削り出しのマスクケースを作った際は、社員が色々な意見を出し合って試行錯誤したことで、社内のものづくりに対する考えも変わっていきました。自分たちのアイデアでものを作るという気持ちが芽生えたことがよかったです。初の試みによってたくさんの気づきがありました。」
営業活動に関する展望については、「つくづく感じたのはデザインの重要性です。自社製品は魅せることも大切。デザイン性に優れた製品開発をイメージしています。」と伺うことができました。
頭とヒレの2点でボタンやタッチパネルを押します。
自社ブランドに込めた想い 株式会社文星閣
商業美術印刷会社の株式会社文星閣(大田区昭和島)は、大胆な営業活動により自社製品を展開します。令和2年6月、抗菌製品技術協議会(SIAA)に加盟。表面に抗菌ニスが加工された「抗菌マスクケース」を開発しました。既存の取引先は同業の印刷会社を中心に、デザイン会社、広告代理店が多い中、マスクケースをどのように展開していくか検討をはじめました。先ずは、近隣区の飲食、宿泊事業所へ約4000通のDMを送付しましたが、反応は思わしくありませんでした。
次に、7月に羽田イノベーションシティで城南信用金庫が開催した商談会があり、そこでのプレゼン内容が新聞に掲載され転機となります。問合せが増えると同時に、文星閣では社内で選抜された4名の若手社員が猛暑の夏場、都内2000件の飲食店や宿泊施設に飛び込みで訪問し、抗菌マスクケースの認知を上げる為に配布しました。「今までアプローチしていなかったところに自社製品を届けることで、お客様の声をダイレクトに聴くことができます。その声を聴きながら様々なデザインや形状に対応していきました」(吉村部長)。さらにECプラットフォームを利用し、自社ECサイトを開設。初めての自社製品を展開しました。抗菌マスクケースは自社ブランド「&P'S」(アンドピース)製品第一号としてオンライン販売を開始しました。
力強い想いを込めた企業ブランドを立ち上げることで、文星閣という会社がどのような会社なのかをより明確に伝えることができます。吉村部長からは「成果が出るまでは時間がかかるかもしれないですが、続けていくことが大切だと思います。」と伺うことができました。
また、コロナによる営業活動の変化や今後の展望については、「リモート化により顧客と対面で会って話す機会は減るかもしれません。雑談から先に進む営業、"会社にではなく、あなたに仕事を出しているんだよ"という本来の営業がある一方で、会社としての信頼をしっかりと発信し、認知されていくことも今後大切になっていきます。」とのことでした。
同社は、1月に「抗ウイルスニス」を使ったマスクケースも作成し、自社ECサイトにて販売を開始しています。全社をあげてコロナに立ち向かったことで、新たな顧客との繋がりを得ました。その取組が今後の財産となり、文星閣ブランドの確立をより強固なものにていくと感じました。
独自技術を駆使し社会に貢献 株式会社山小電機製作所
株式会社山小電機製作所(大田区東糀谷)は、足踏式消毒スタンド「ステップシュー」を製品化し、区内公共施設や病院に納入しています。5月、小湊社長はテレビでドラムメーカーが足踏式消毒液スタンドを発売したのを見ました。値段を見ると16,500円。「もっと安く作って、地域に貢献しよう」と技術部に持ち掛け、都内で初めて導入された3次元レーザー加工機「3D Fabre Gear MK 220 Ⅱ」で角パイプを製造するなど、社内一貫体制で製品化しました。当初は取引先や協力会社に渡していましたが、「ステップシュー」を紹介している大田区産業振興協会Webサイトや実物を見た人の口コミで評判が広がり、問い合わせが増え、受注累計は100台を超えました。高い技術力を活用して短期間で製品化し、地域社会に還元するネットワークを持つ大田区ものづくり企業だからこそできる取組みです。
一方で、本業の5G基地局用部材や防災・減災製品の展開は、3月に入ってから新たな試みを始めました。技術データベースサイト「イプロス」の有料プログラムに自社技術・製品を登録し、Webサイトでの営業を強化しました。特に防炎・減災製品に関しては、イプロスでのPRに加え、展示会に出品するなど、間口を広げた営業活動を展開しました。災害時にキーボックスの開錠を遠隔で操作できる「自動開錠ボックス」は、全国の自治体から引き合いがきています。
「データベースサイトでの取組による効果は出ていると思います。展示会への出品と合わせて、今後も継続していく考えです」(小湊社長)。同社は、自社ECサイトの開設も検討しており、多角化により自社製品の販路拡大を目指していきます。
大田区の製造業は、コロナ禍において様々な営業展開を考えて取組んだことにより、新たな知見を得た企業は多いのではないでしょうか。取材を通じた中で、自社技術を駆使した製品を社会に還元する一方で、新たな顧客や生活者との間にできた繋がりは、今後の事業展開に欠かせないものになると思いました。引続き、コロナ禍における区内企業の新たな取組みについて動向を注視していきたいと思います。