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2021年03月01日 公開
新型コロナウイルスの感染拡大によって社会が一変した2020年。私たちを取り巻く経営環境は極めて不透明かつ厳しい状況にあります。しかしながら、こうした環境下においてもイノベーションを通じた成長や収益力向上を果たしている企業がいくつも存在している現実があります。
今回は、"見えない敵"と闘いながら2020年を乗り越えてこられた4社を代表する方々にお集まりいただき、コロナがもたらした影響や自社の強みを活かした取り組み、テレワーク等による働き方改革などについて語っていただきました。アフターコロナを見据えて変革に挑む企業の姿からは、多くのことを学べるのではないでしょうか。
司会 先ずは会社の自己紹介をお願いします。
加藤さん 映像メーカーからお預かりしたDVD等を、データ変換して全国のレンタル店や小売店に納入する「映像事業」、学習塾向けのタブレット生産を海外で行う「教育事業」、新たなお客様のニーズにお応えしていく「開発事業」の3事業を柱に、廃棄された光ディスクなどの再生利用を外部に委託する「リサイクル事業」も展開しています。
青沼さん シート成形や真空形成と言われている樹脂製のトレーの金型を作っています。得意なのは洋菓子メーカー向けのチョコレートやクッキーの詰め合わせ用で、先代が木型職人だったことから、今でも樹脂を掘って金型を製作しているのが弊社の特徴です。
石渡さん 1946年から鉄、アルミ、真鍮を中心とした切削加工と電装品のスイッチの設計・製造を行っています。いずれもトラック・バス等の商用車や建設用車両に向けたものですが、7年ほど前から二輪車メーカーにも販路を広げ、現在は音響機器メーカーとのお取引もあります。
朝倉さん 造船所や建築現場で用いる流体ガス用のワンタッチ継手と乾式安全器を作っています。また、シャンプーやリンスの詰め替えパックに直接取り付けて、フックなどにぶら下げたまま中身を最後の一滴まで抽出できる「詰め替えそのまま」の製造も弊社の成長事業です。
新型コロナの影響について
取締役 工場長 石渡 良平さん
司会 新型コロナウイルスによる影響はありましたか。
加藤さん 外出自粛要請で映画会社やテレビ会社で撮影ができなくなったことから、映像事業の売上は通常の5割ダウンくらいになりました。しかし、アナログ映像を4K映像にデータ変換させる技術が昔のフィルム作品を再放送する際に使われたため、8月の決算では売上・利益共に昨年度と大きく変わることはありませんでした。教育事業の売上は塾以外に家庭でもタッチパネルを使って勉強できるようになったことで、昨年度よりも3割アップしました。今振り返ってみると、一つの事業に限らず、自分たちができる範囲の3本柱の事業がトータルで上手くバランスの取れていたことが良かったのだと思います。
石渡さん コロナ禍で新規開拓は厳しい状況にあったので、そこは完全に割り切って既存顧客へのアプローチもしてみたのですが、やはりどこも動きが停滞していて、すでに受注している案件でも立ち上げが延期になったものもありました。弊社は受注型なので、こちらの意思だけでどうにかなるものではないので、そこは流れに身を任せるしかないという思いでやってきたという感じです。7月から8月にかけての売上は底の状態でしたが、11月は8割程度まで回復しています。今後は中国の動きがかなり活発になり、産業用のエンジンは過去最高の台数が必要になる計画も出ていますので、現在はそれを見越した事前準備を進めているところです。
朝倉さん 弊社は買い替え需要のある製品を扱っているので、リーマンショックや東日本大震災の時でも大々的に受注が落ちることはありませんでした。「詰め替えそのまま」に関しても、生活必需品ではないので需要が落ちると思ったのですが、意外にも買ってくださる方が多くて製造が忙しくなり、派遣会社に人員募集をかけたほどです。
コロナ禍だからこそできる事を
代表取締役社長 加藤 光淑さん
司会 新型コロナ対策として特に取り組まれたことがあればお聞かせください。
加藤さん 3月初旬に大田区内の会社と連携して足踏み式消毒液スタンド「フットプッシャー」を作ったところ、3000台を即売することができました。また、飛沫防止パネル付きのプロンプター(原稿投影機)も開発しました。アクリル板の一部を加工し、パネルの中央に原稿を反射させる仕組みで、聞き手側からは投影された文字が見えません。このプロンプターは、これまでに私たちが培ってきたものから生まれた新商品であり、現在も様々なところから引き合いをいただいています。コロナ禍は自分たちの持っているものを掘り起こす期間なのかもしれないと考えています。
青沼さん ゴールデンウィーク直前に、ニュースで医療機関用のフェイスシールドが不足していることを耳にし、弊社には材料も人も設備も整っていたので、早速2万枚を製作して全国に無料配布しました。プレスリリースをしたところ、大きな反響があり、毎日お礼のメールや花束が届きました。人から「ありがとう」と言ってもらえることが、どれだけ従業員のモチベーションを上げるのかを実感し、情報の出し方がいかに大事であるかを学びました。
石渡さん 社員に対して感染予防の注意喚起を行いました。しかし、市場でマスク不足が続くと買えない人も出てきて、社内の雰囲気が殺伐とした雰囲気になったため、毎週一斉にメールを送ったり、直接顔を合わせるなどして社員とのコミュニケーションを図ることに力を入れました。また受注が減って時間が余っていた時は社内清掃をこれまで以上にするなど、6S活動に取り組みました。
朝倉さん 弊社は一部、商社的な動きもしているため、マスクやアルコール消毒液を何千枚、何千本と仕入れることができます。そこで4、5月はマスクを近隣に無料配布し、従業員には消毒液を配ってコロナ対策を進めながら"コロナ事業"として取引先にも安価で販売しました。
また、「詰め替えそのまま」の仕組みを応用した新商品として、玄関のドアノブを触る前に消毒液で手指を清潔にできる袋を考案しました。現在は、弊社のアイデアグッズを雑誌やSNSで取り上げてくれたユーチューバーさんたちとのコラボした商品を、クラウドファンディングで販売する事業も進めています。
働き方の変化
代表取締役社長 青沼 隆宏さん
司会 テレワークやWeb会議の活用など、働き方の面で変化したことはありますか。
加藤さん 弊社の仕事はデータ量が重いので一般的なパソコンでは対応することができません。そこで、エンジニアに対しては自宅でテレワークのできる環境を会社で用意しました。ただし、テレビ局や映画会社の方と一緒に色や画質を確認しなければならない時もあるので、時差出勤制度を導入してフレキシブルに対応してもらっています。
青沼さん これまで、お客様にわざわざ弊社に来ていただいて現物を見ながら打ち合わせをしていたものが、外出自粛になってからはZoomやWeb会議やメール、電話でも済んでしまうことが多くありました。コロナ禍で仕事量が減ったとはいえ、お客様と直接会う回数は前年の10分の1くらいにまで減っていると思います。
石渡さん 休業を少し取り入れ、有給休暇の取得推進も行いました。テレワークに関しては、私自身は10年前からSkypeやTeamsを使える環境を自宅に整えていたのですが、それに対応できる相手がいませんでした。テレビ会議くらいならまだしも、社内のサーバーにアクセスするとなるとセキュリティや通信速度の確保が必要です。そのため、実際にコロナ禍でテレワークを実践したのは私一人という状況でした。
朝倉さん 営業と製造部門の全てをテレワークにするのは難しいものがありますが、ZoomやWeb会議が全体的に浸透してきたことで、生産性が上がることが増えたというメリットも感じています。
今後の方向性
PB商品生産部所長 朝倉 優也さん
司会 今後の抱負をお聞かせください。
朝倉さん 弊社には今、新しく社内に販売事業部を立ち上げる計画があります。現在は2本しかない柱を今後は3本4本と増やし、次の50年に向けて100年企業を目指していきたいと思います。
石渡さん 一社だけで出来ることは限られていますので、今一度自社の事業を冷静に見極めて、大田区内の各企業さんとのつながりを強くしていきながら売上の倍増を目指したいと考えています。
青沼さん 従来から副業関係の方々と共に仕事を進めてきましたが、今後はその比率を増やしていきたいと考えています。今日は加藤社長のお話を聞いて、弊社も今の柱を増やしていくことにもっと真剣にならなければいけないと実感しました。思い付きやひらめきを大切にし、失敗してもいいからとりあえずやってみる姿勢を大事にしながら、事業の柱を増やしていこうと強く思っています。
加藤さん 今後もそれぞれに得意分野を持つ大田区内の企業さんと連携をとりながら、新しい商品を開発していきたいと思います。また、どのような状況下でも従業員が安心して働ける環境づくりをしっかりと行っていきたいと考えています。
司会 ありがとうございました。